著者
田口 雅徳
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.206-215, 2001-11-15 (Released:2017-07-20)

本研究では,幼児の描画特性である知的リアリズム反応の原囚として,知っている情報を伝えようとする子どもの積極的意図があると仮定し,その検討をおこなった。被験児は4歳から6歳までの幼児169名であった。被験児の描画対象に関する知識量を操作するため,描画的に描画対象である人形について描く部分(背面)しか見せない条件(部分条件)と,人形の全体を見せる条件(全体条件)の2条件を設定した。描画時にはどの被験児にも人形の背面側を呈示し,それを見えているとおりに描くよう教示した。結果から,5歳児においては全体条件より部分条件の方が見えどおりの描画が多いことが示された。また,見えどおりの描画は,部分条件では加齢にともない増加する傾向が見られ,一方,全体条件では4歳から5歳にかけて減少し5歳から6歳にかけて増加した。さらに,見えどおりではない描画反応を,対象固有の情報が反映されているかどうかという観点から2カテゴリに分類し,その発達的変化を検討した。その結果,4歳児では対象の標準型を描く反応が多く,加齢に伴い対象固有の情報を伝達するようなコミュニケーション型の描画反応が多くなった。これらの結果から,5歳児以降では,描画対象固有の情報を考慮し,それを描こうとするために,知的リアリズムによる描画が生じているのではないかと考察された。