著者
田名部 康範
出版者
社会政策学会
雑誌
社会政策 (ISSN:18831850)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.67-78, 2011-03-20 (Released:2018-02-01)

本稿の課題は,1950年代の保守勢力における福祉国家論の諸潮流を析出することによって,日本の福祉国家形成に影響を与えた理念やアプローチを明らかにすることである。1955年に結成された自由民主党は綱領に「福祉国家」を掲げたが,この理念の担い手は改進党や自由党岸信介派の議員たちである。彼らは欧米の福祉国家をモデルとして社会保障を重視しており,その制度的帰結が国民皆保険・皆年金である。これに対し,石橋湛山や池田勇人は,イギリスを反面教師として,社会保障を消極的政策生産の拡大を積極的政策と位置づけた。これが高度経済成長政策の背景にあるアプローチである。本稿では,後者をエスピン-アンデルセンの三つのアプローチ(自由主義,保守主義,社会民主主義)のいずれとも異なる生産主義アプローチとする。