著者
佐藤 章夫 田坂 捷雄
出版者
山梨医科大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

1)新潟県下のトリクロロエチレン作業者を対象にしてトリクロロエチレン暴露と消化器症状および強皮症様症状の出現頻度との関係を調べた。腸管嚢腫様気腫と関連の深い症状(腹部膨満感、排ガス、腹痛、交代性便通異常、泡沫状粘血便)は女性のトリクロロエチレン作業者に症状合併率が有意に高かった。強皮症様症状(手足・顔・体幹の皮膚の硬化、指の皮膚が硬くつっぱる、指のこわばり、寒さで皮膚が変色する)の合併率は男女ともトリクロロエチレン作業者に多いことが確認された。また、長野県下で行った同様の調査で、トリクロロエチレン作業者における腹痛と腹部膨満感の訴え率とトリクロロエチレン暴露の間に量ー影響関係が認められた。2)腸管嚢腫様気腫新発生4例の作業環境を調査するとともに、長野県下で過去に発生した15例(計19例)の腸管嚢腫様気腫症例の労働衛生状況について調査した。その結果、多くの症例がトリクロロエチレンと同時に高濃度のメタノ-ルに暴露されていることが判明した。トリクロロエチレンとメタノ-ルの混合暴露が腸管嚢腫様気腫の発生にどのような影響を与えるか検討する必要が示唆された。3)トリクロロエチレンとメタノ-ルを単独あるいは混合して経口的に与え、腸管の変化を観察した。2回のバリウム注腸・X線検査で腸管に変化は認められなかったが、トリクロロエチレンあるいはメタノ-ル群の腸管(下降結腸)の粘膜下組織あるいは漿膜下組織に浮腫が認められた。同一部位から採取したコントロ-ル群には全く認められなかったので、この変化はトリクロロエチレンあるいはメタノ-ルの投与によって起こったものと思われる。しかしこの変化が腸管嚢腫様気腫とどのような関係にあるのか不明である。