著者
田実 潔
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.109-118, 2001-03-31
被引用文献数
1

知的障害養護学校中学部に在籍している3名の自閉症児を対象に、他の知的障害養護学校の生徒と、テレビ会議システムを利用して1週間に2回、約2か月の間、計16セッションの交流を行った。交流相手は軽度の発達遅滞児であり、「テレビ会議」ルーティンにおいては、弁別刺激となる言葉の使用に問題のない生徒たちであった。対象となった自閉症児は、日常の生活の中で反響言語的な応答発話やパターン化した非応答的発話が目立つ生徒であり、質問に対して適切な応答的発話の獲得が望まれている生徒たちである。標的行動は5種類であり、応答的言語行動はReturn型、許可型、What型に分類され、1、2セッションをベースライン期、Return型応答的言語行動と、What型応答的言語行動のうちの自分の名前を聞かれる弁別刺激に対する標的行動がほぼ100%獲得された6セッションまでを第I期、すべての標的行動の正反応率が100%となった14セッションまでを第II期、15、16セッションを第III期(プローブ)とした。約2か月後に、標的行動について教師が「テレビ会議」ルーティンでの相手役になり般化を調べたが、標的行動(1)と(2)および(4)では100%の正反応率となり、標的行動(3)と(5)ではそれぞれ3名中2名が正の応答的発話を維持していた。自閉症児の応答的発話については、指導者との1対1の指導体制から応用行動分析の手法で指導がなされることが多かった。今回、知的障害養護学校の生徒同士の交流(テレビ会議ルーティン)から複数での応用行動分析手法による指導を行ったが、1対1の構造化された指導場面でなくても、標的行動を明確に分析し、強化していくことで自発的な応答的発話が形成されることが示された。特に、What型応答的言語行動では、標的行動を自閉症児がわかりやすい具体物に設定することで、応答的発話が獲得されやすいことが示された。また、テレビ会議では、社会的相互作用に困難を示す自閉症児の場合でも、通常のやりとり行動では視覚的に確認できない自分の姿を、交流相手の姿とともにリアルタイムで、しかも動画で視覚情報として提供されることになり、自閉症児の興味関心を持続して保つことができ、応答的発話獲得に有効な手段であることが示された。