著者
上久保 恵美子 比企 静雄 福田 友美子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.11-18, 1997-01-31
被引用文献数
1

聴覚障害者の社会活動のための言語媒体の有効性について分析する研究の一環として、各種の言語使用の場面に応じた言語媒体の使い分けと手話通訳者の有効性を検討した。この研究で使った調査資料は、東京と近県の重度聴覚障害者に1991年に質問紙を郵送して、20歳〜70歳の男女約1,700人から回答を得たものである。そのうちの、口話・手話・筆談などの使用についての諸項目の応答を、種々な場面での有効性に注目して分析した。その結果、旅行、市役所・警察・病院、子供の入学式・卒業式、子供のPTAの集まり、駅やバス・電車の放送などの日常生活での対照的な言語使用の場面に応じて、言語媒体の使用の割合や有効な程度が著しく異なること、手話通訳者や介助者の助けが場面によっては有効に役立っていることが明らかになった。
著者
安藤 里美
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.1-5, 1992-03-30

特殊学級に在籍している自閉症児T君のコミュニケーション能力および普通学級の先生や児童との交流を促進する目的で、毎朝、コミュニケーションカードを用いて普通学級で「欠席調べ」を行うという係活動の実践を行った。この活動の効果は、各学級での「欠席調べ」の遂行の変化と、個別に各普通学級担任がT君に本を読ませるという「音読テスト」の場面で検討された。効果測定では、直接の行動観察の他に、第三者による印象評定が用いられ、それぞれ「欠席調べ」による効果が確認された。また、他の日常場面でも、T君と普通学級担任ならびに児童との交流の変化がみられ、当実践はT君のコミュニケーション能力と交流の促進のために有効なプログラムのひとつであったと言えよう。
著者
宇野 宏幸
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.40, no.5, pp.479-491, 2003-01-30
被引用文献数
1

近年、行動抑制の欠如という観点から、注意欠陥多動性障害(ADHD)が理解されつつあり、今後、そのプロセスの解明が期待されている。本論文では、そのプロセスに注意の欠陥から直接的にあるいは注意欠陥によって認知処理がうまくできないために行動抑制ができない場合と、情動制御の失敗によって生じる衝動性の2つがあることを述べる。さらに、この2つのプロセスに対応するメカニズムが大脳皮質の前頭前野に存在し、これらが実行的注意の中枢で統合されていることを説明する。以上の知見をふまえて、ADHDの行動抑制障害に関して階層的な認知神経心理学的モデルを提案する。
著者
瀬尾 政雄
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.1-13, 1982-07-24
被引用文献数
2

点字を常用する視覚障害者は、日本語が漢字仮名交り文を正書法とするため漢字・漢語の理解特に同音異義語の理解に困難がある。点字使用者のこの不利を明らかにするため同音異義の漢字を想起させてその結果を比較した。被験者は一般学生28名、弱視学生39名、点字使用学生28名。想起数の平均値を点字群と漢字群とで検定した結果0.1%水準で有意差が認められたが各群内の正眼と弱視、先天盲と後天盲では有意差は認められなかった。しかし、漢字群(正眼≒弱視)〉点字群(後天盲〉先天盲)の関係がすべての結果においてみられた。想起された漢字の出現順位は使用文字に関係なく、漢字使用経験の有無にも関係なく一致した傾向にあった。特に漢字経験のない先天盲グループの漢字の理解度も解答頻度から十分に理解したうえで解答していることが確認された。なお漢字・漢語の理解度は今後に予定している文脈における理解力の程度とその影響に関する調査により更に正確なものとすることが今後の課題である。
著者
小島 道生 池田 由紀江
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.215-224, 2004-09-30
被引用文献数
1

本研究の目的は、知的障害者(24名)を対象として、従来多く用いられていた選択式による回答方法ではなく、知的障害者自身の自己叙述から自己理解を測定し、その特徴を明らかにすることである。対照群として、生活年齢を統制した健常者(64名)と比較し、分析した。その結果、知的障害者は自己理解に関するすべての質問項目に対して回答することが健常者に比べて困難で、中でも自己評価の「好きなところ」「嫌いなところ」と自己定義の「どんな人」という質問項目に対して答えることが困難であった。一方、同じ自己評価でも「いいところ」「悪いところ」に対する質問は「好きなところ」「嫌いなところ」に比べて回答しやすく、知的障害者自身の自己理解が進んでいる項目と考えられ。知的障害者の自己理解について、対象者を性別(男と女)、生活年齢(高群と低群)に基づき2群に分けて得点を比較した結果、有意差はなかった。ただし、精神年齢の高群(8〜13歳代)は低群(6〜7歳代)よりも、「嫌いなところ」について、有意に自己理解が進んでいることが示唆された。
著者
仲野 真史 長崎 勤
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.183-192, 2009-09-30

出来事を意味づける手段として、また読解力や自己理解および他者理解の発達的基盤として、ナラティブへの注目が高まっている。ナラティブは幼児期、学齢期を通して高次化していくが、この発達過程には大人からの社会的な働きかけ、一般的・社会的認知の発達、ふり遊びなどの行為水準での物語的活動が関与する。また、障害児のナラティブでは、それぞれの障害特性がナラティブの発達を制約する。日本ではナラティブの発達を支援する実践は古くから行われているものの、発達を体系的にとらえる観点やアセスメント方法の構築は進んでこなかった。本稿では、先行研究の概観を踏まえ、日本の子どものデータを積み上げること、これまでの知見を結びつけ、諸要因が影響し合うプロセスを解明すること、形式的側面だけでなく、ナラティブがどのような文脈でどのように使用されたのかといった側面を分析することなどの今後の課題が提起された。
著者
関戸 英紀
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.7-14, 2001-03-31

「いってきます」「ただいま」「ありがとう」(以下、あいさつ語とする)の自発的表出に困難を示す、CA13歳0か月、MA3歳9か月の自閉症男児に対して、「買い物」ルーティンを用いて、あいさつ語の自発的表出を目的とした指導を約3か月間(31セッション)行った。その結果、あいさつ語の自発的表出が可能となり、またある程度の日常場面での般化および指導終了5か月後の維持が確認された。以上のことから、対象児にとって、"出かける""帰宅する""物をもらう"という3つの場面の文脈の理解が可能になったこと、あいさつ語の習得には聴覚的プロンプトの提示よりも視覚的プロンプトの提示のほうが有効であったこと、文脈の理解と言語の表出との間に相互に関連する傾向がみられたことなどが検討された。
著者
竹花 正剛 竹花 裕子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.103-111, 1994-03-31
被引用文献数
1

1970年代に入って、無発語の自閉症児や重度の精神遅滞児に対して非音声系の補助手段としてサインやシンボルや文字を用いた指導法が多く報告されるようになった。非音声系の補助伝達手段を、音声言語の補助とするか、または代替として機能させるかは、障害のレベルやタイプおよび音声言語のレベルによって異なる。本研究は、視覚-運動系が優位で優れた視覚的記憶を示す中度の遅れを持つ自閉症児にサインと言語の同時提示法(マカトン法)を導入して、命名学習へのサイン言語の有効性を検討した。結果は、サイン反応の習得が言語反応に先行し、最終的にはサインと言語の複合反応を形成した。般化事態では、言語反応の般化は見られたが、サイン反応の般化はほとんど認められず、修正法の導入で言語とサインの両反応の般化が見られた。また、言語条件とサインと言語の同時提示条件と比べた場合、後者の方が学習成立が速い傾向が認められた。
著者
河内 清彦
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.19-32, 1979-10-15
被引用文献数
2

視覚障害者(児)に対する態度構造を自己の意見と社会的望ましさの視点から解明するため特教学生、盲学校教師(関係群)一般学生、普通校教師(無関係群)に質問紙調査を実施した。これらの回答を因子分析した結果、両視点に共通の因子が9個求められた。これらを一般化された拒否、統合教育、特殊能力、依存的な自己中心性、相互作用についての当惑、期待される盲人像、知的能力、家庭生活、失明の影響と名づけた。さらに自己の意見からは「社会保障」の因子が抽出された。またこの次元(因子)の一部を測定する暫定尺度が構成された。最後に因子得点に基づいて各群を比較した結果、最初の3つの次元において関係群と無関係群に、また「相互作用についての当惑」で一般学生と盲学校教師に態度の相違がみられた。これらは視覚障害者(児)を同じ人間としてみるか否かにその原因があると推測されるが、知識だけでは視覚障害者(児)問題の解決にはならず社会との交流の重要性が指摘された。
著者
香野 毅
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.43-53, 2010-05-31

発達障害児の姿勢や身体の動きにおいて、その発達的偏りや弱さ、苦手さが観察されることが少なくない。ここではまず、広汎性発達障害、ADHD、LD、発達性協調運動障害について、それぞれの障害における姿勢や身体の動きに関する研究を取り上げた。彼らが姿勢の安定性やバランス、協調運動、粗大運動、微細運動などといった面に困難さを有していることが見いだされ、さらにそれぞれの障害のもっている特徴も報告されつつある。次に姿勢や身体の動きと認知、行動、感情の関係についてこれまでの研究を概観した。最後に、発達障害児の姿勢や身体の動きに対してアプローチしている3つの指導法を紹介した。姿勢や身体の動きが彼らを理解する際のひとつの側面であること、かつ種々の困難さへの治療教育的なアプローチの窓口として活用することを提案した。
著者
窪田 隆徳 藤野 博
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.71-81, 2002-05-31
被引用文献数
3

音声言語表出面に著しい障害をもつ言語発達障害の1事例に対し、voice output communication aids(以下、VOCAと略す)を使用した喫茶店での注文場面の指導と、家庭へのVOCAの貸し出しを行い、コミュニケーション行動および音声言語表出行動における変化を観察した。その結果、対象児のコミュニケーションスキルが拡大するとともに、非音声型のコミュニケーションモード(指さし・サイン・シンボル)から音声型のコミュニケーションモードへと変換がなされ、音声言語表出が可能となった。それまで、学校や施設などで先行・並行して行われていたコミュニケーション指導に加えて、VOCAを使用した伝達場面設定型の指導によって、コミュニケーション行動の拡大と音声言語表出が獲得されたことから、本研究での対象児のような事例に対しては、VOCAを使用した実用的なコミュニケーション指導が有効であることが示唆された。
著者
有川 宏幸
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.265-275, 2009-11-30

応用行動分析学に基づく自閉症児への介入法は、有効性が認められてはいたものの、米国心理学会臨床心理学部会が示した「十分に確立された介入法」としての基準を満たしていなかった。しかし、それに準じる介入法として注目されていたのがUCLA早期自閉症プロジェクト(UCLA YAP)であった。Lovaas(1987)は、UCLA YAPを4歳未満の自閉症児に週40時間、2〜3年にわたり行ったところ、47%が標準範囲のIQに達したことを報告した。この結果は前例のないものであったことから、多くの研究者に精査され、自閉症からの「回復」という表現の問題や、無作為割付けの有無といった実験手続き上の問題などについて批判を浴びることとなった。そのため追試・再現研究は、可視的に、科学的な厳密さをもって実施されており、こうした批判への反証データも示されるようになっている。しかしながら、この成果については依然として不明な点も多く、「証拠」(evidence)に基づく継続的議論が必要であろう。
著者
吉岡 伸 松野 明子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.45-51, 1993-11-30

1989年より4回にわたって、精神遅滞児におけるひらがな文字(71字)の読み能力と身近な名詞の音韻抽出及びいくつかの知覚課題の能力を測定した。対象児は精神薄弱養護学校に在籍する児童・生徒であり、1989年においては51名、1990年においては39名、1991年においては32名、1992年においては26名である。読み能力の成績はU字型の分布、すなわち「殆ど読めない」集団と「よく読める」集団に分かれた。読み能力に対してそのほかの三つの諸能力はそれぞれ有意な相関を示し、ひらがな読みの習得に一定の影響を持つことを示唆した。初年度(1989年)と最終年度(1992年)との各テストを比較すると、読み、音節分解、音韻抽出の各能力は3年間にわずかであるが伸びを示したが、知覚関連の成績はあまり変化しなかった。精神遅滞児における読みとその他の能力の関連のしかたについて考察した。
著者
久保山 茂樹 菅井 邦明
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.13-22, 1993-09-17
被引用文献数
1

本研究では発達遅滞児124名の音声言語行動の諸相を把握・分析した。筆者と対象児とが歌遊び『げんこつ山』を行う場面を観察、録画した。分析には菅井(1989)の評価法を用いた。結果は5段階に分類された。A段階(35名):動作と肉声の歌の提示下で動作発信できる。B段階(67名):肉声の歌のみの提示下で動作発信できる。C段階(14名):所要時間13秒のテープに録音した歌の提示下で動作発信できる。D段階(3名):10秒のテープの歌の提示下で動作発信できる。E段階(5名):伴奏や語りの入ったレコードの歌の提示下で動作発信できる。対象児はA段階では歌わず、C段階で歌い始め、E段階で完全に歌った。E段階に至る過程には、視覚→動作系、聴覚→動作系、聴覚→構音系の順で情報処理の学習が必要であった。A、B段階では動作の提示が行動発現に必要であり、C、D、E段階では音声の提示のみで、音声言語を受信-発信できた。各段階に応じた指導について考察した。
著者
齋藤 友介 草薙 進郎
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.31-38, 1997-01-31
被引用文献数
1

聴覚障害児(者)の読話に影響を与える要因のうち、音節の見やすさが単語の読話成績におよぼす影響を検討した。見やすさの指標としては単音節同定課題から得られた日本語の直音62音節の正答率である音節可視度(齋藤,1992)が使用された。読話材料は語彙難易度を統制するために、「新教育基本語彙」(阪本,1984)における小学校学習相当の単語から選定された。材料にはVTRに収録された音節可視度と語彙難易度が異なる4条件、計20のランダマイズされた3モーラ単語が使用された。対象は聾学校小学部(4〜6年)に在籍する平均聴力レベルが90dB(HL)以上の重度聴覚障害児40名であった。分散分析による検討の結果、音節可視度は単語読話成績に影響を与えることが確認され、さらに、単語読話条件における音節の同定成績は、易しい語彙難易度の単語において、単音節同定課題における成績を上回ることが示された。
著者
高畑 庄蔵 武蔵 博文 安達 勇作
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.9-16, 1999-03-30
被引用文献数
1

本研究の目的は、知的障害の養護学校高等部生徒9名を対象として環境・リサイクルに関する授業を実施し、対象生徒がそれぞれの家庭においてゴミ出し行動を自発し長期的に維持することであった。家庭場面での標的行動の自発を促進するために「生活技能支援ツール」(武蔵・高畑,1997)として「ゴミ出しミニブック」を作製し、対象生徒に提供した。それは、標的スキルの習得や実施を容易にする手がかりとなるもの、自己の行動を記録して、対象生徒と保護者と教師とが評価し合う機会を提供するものとで構成された。結果、5名について標的行動の実行が確認され、授業終了から1年5カ月間の維持が確認された。また、生徒本人に標的行動に関する事前・事後アンケート、保護者に生徒の家庭場面における標的行動の自発に関するアンケートを実施した結果、概ね肯定的な評価を得た。家庭場面での標的行動の自発・長期的な維持の方略、養護学校における教育的支援のあり方の観点から考察を行った。