著者
鵜飼 尚代 田尻 紀子
出版者
名古屋外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は、発光素子への応用に偏っている窒化インジウムガリウム(以下、InGaN)結晶薄膜を、光検出素子用材料として特徴づけ、かつ、高速高感度素子の試作研究を行うことである。試作研究では、Metal-Semiconductor-Metal構造(MSM構造)の受光部1mm×1mmの大面積素子で、10Vで100 pA以下の暗電流、0.1A/W以上の受光感度、および、10ns台のパルス応答を確認した。透明サファイア基板という点、及び、窒化ガリウム(以下、GaN)層上のInGaN薄膜を光感受層とする点、の2つの特徴を活かして、波長400-500nm帯の可視光検出器としての得失を明らかにすることができた。即ち、表面入射と裏面入射の相違を調べ、電極直下部の光電流への寄与を明らにできた。この知見を基にInGaN/GaN 2層構造の特異な電圧依存性を解明し、ショットキーダイオード形素子において、バイアス極性による350nmと400nmの2色弁別検出を実証できた。また、下地GaN層の厚さとバイアス電圧の制御により、紫外線に感応しない青色用狭帯域光検出器を実現できた。ここで用いたInGaNは厚さ30nm以下の薄膜であり、ピエゾ効果に基づく内蔵電界を有効に利用した。膜厚を増せば感度は大きく増大するが、暗電流も増大する。これは、歪み緩和による結晶性の変化に依ると解釈できる。なお、高速応答性に関連して深い準位を評価し、DLTS法によりGaN層に深さ約0.5eVの電子トラップ準位の存在を確認したが、光パルス信号に対する反応の遅い電流成分(光持続電流)を解消するには至らなかった。今後は、InGaN層の内蔵電界の利用を中心に本研究を発展させたい。