著者
尾崎 明人
出版者
名古屋外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,日本語学習支援の活動に対する日本語ボランティアの意識を明らかにすること,ボランティア教室における教育方法の改善策を探ることを目的として,(1)ボランティアが運営する地域の日本語教室におけるコミュニケーションは,外国人の日本語学習,日本語習得にどのような効果をもたらしているか,(2)そのコミュニケーションは,日本人ボランティアにとってどのような学びの場になっているか,という二つの研究課題を設定した。この研究課題に沿って,1年目には愛知県下の日本語ボランティアおよそ1000名にアンケート調査票を配付し,475名分の有効回答を得た。2年目に調査票の量的分析を行い,3年目は自由記述欄の分析を行った。その結果,50代の主婦が全体の23%(107名)とボランティアの主力であること,ボランティアの約1割は420時間の日本語教師養成講座修了生など教師の卵であること,クラス形式の活動に従事するボランティアがもっとも多く,ボランティアの26%は日本語がほとんど分からない入門レベルの指導に当たっていることなどが明らかになった。ボランティア活動の意義として,外国人から感謝されることにやりがいを感じる(182名),外国人の日本語が伸びるのを見ると嬉しい(157名),外国人との交流で自分の世界が広がった(123名)など,日本語ボランティア活動の意義を示す自由記述が見られた。一方,外国人の多様性に対応するのが難しいという回答が多かった。1年目と2年目は日本語教室を合計36回見学し,2年目に16回分の授業を録音,録画し,7回分を文字化した。3年目は,談話資料をもとに授業展開の記述および日本人ボランティアの教授行動の分析を行い,さらに教室でのコミュニケーションを通して外国人学習者が定型表現を獲得していく過程の一端を明らかにした。
著者
亀山 郁夫 白井 史人 林 良児 沼野 充義 甲斐 清高 野谷 文昭 梅垣 昌子 藤井 省三 高橋 健一郎 齋須 直人 望月 哲男 番場 俊 越野 剛
出版者
名古屋外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

ロシアの作家フョードル・ドストエフスキーの文学のもつ世界的意義について、「危機」の想像力と「再生」のヴィジョンをキー概念としつつ、主に2つの観点から解明する。Ⅰ、アレクサンドル二世暗殺を頂点とする19世紀ロシアの社会と人間が陥った危機の諸相とドストエフスキー文学の関連性を、歴史、宗教、文学、人間の観点から明らかにし、Ⅱ、「危機」の想像力と「再生」のヴィジョンが、世界諸地域の文学及び表象文化(映画、演劇、美術ほか)にどう受け継がれ、再生産されたかを明らかにする。後者の研究においては、「世界のドストエフスキー表象」と題するデータベース化を目指している。
著者
上田 功 松井 理直 田中 真一 野田 尚史 坂本 洋子 三浦 優生 安田 麗
出版者
名古屋外国語大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本年度の研究成果は大きく4つの領域に分けることができる。最初は音声産出の生理面である。松井は自閉症児に見られる外国語様アクセント症候群と呼ばれる障害に関して、ほぼ純粋にこの障害のみを引き起こしている言語障害者1名を対象に、その特徴と脳内機序に関するケーススタディを行った。行動レベルでは有アクセント語についてはほとんど誤りがなく、無アクセント語が有アクセント語に変異するというパターンが多くを占めること、またその時のアクセント核の位置が多くの場合に ディフォールトのアクセント位置 (後部から 2 モーラないし 3 モーラ目) に生じることが明らかとなった。続いて成人の外国語訛りとの平行性に関する研究領域で、野田は非母語日本語学習者の読解過程を調査し,どこをどのように読み誤るのか,わからない部分をどのように推測するのかを分析した。また,読解時に辞書を使用しても,適切な理解に至らないケースも分析した。このような読み誤りや辞書使用の問題点の中には,発達障害児に見られるものと共通するものもあると考えられる。田中は韓国語を母語とする日本語学習者の誤発音について、とくにリズム構造に焦点を当て分析した。韓国語話者が目標言語(日本語)における有標のリズム構造を極端に避けるのに対し、無標のリズム構造を過剰産出することを明らかにした。上記の分析結果をもとに、リズム構造の有標性と自閉症スペクトラム児のプロソディー産出との並行性について考察した。安田は日本人ドイツ語学習者の声帯振動制御に関して、音響的分析を前年度に引き続きおこなっている。次に三浦は語用論的側面に関して、小学生児童を対象にプロソディの特徴について、コーディングを行っている。最後に臨床応用面では、坂本がロボテクスの教育への導入が、学習不安の軽減に繋がる可能性を発見し、自閉症児の学習においてロボットを活用できる可能性を見いだしている。