著者
田川 真由
出版者
日本音楽学会
雑誌
音楽学 (ISSN:00302597)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.87-102, 2021 (Released:2023-03-15)

18世紀から作曲され始めるようになったオルガン協奏曲は、19世紀に入り一度作曲が途絶えたが、19世紀後半に再び作曲されるようになる。この復興と呼べる現象を指摘したコロバは、J. G. ラインベルガー(1839-1901)のオルガン協奏曲におけるオルガンとオーケストラの組み合わせ方が、他の作曲家と異なると述べている(Choroba 2001)。しかしコロバは、様々な作曲家の楽曲の形式分析を主眼としていたため、ラインベルガーのオルガンの用法は十分に論証されていない。そこで本研究では、ラインベルガーのオルガン協奏曲を、同時期に書かれた他の作曲家(フェティス、プラウト、ギルマン)の楽曲と比較し、彼のオルガンの用い方の独自性と、その着想の源泉を明らかにすることを目的とする。 本論ではまず、ラインベルガーのオルガン協奏曲の分析を音響設計に着目して行った。そして、彼の楽曲がオルガンとオーケストラという2つの音響体を対立させる構図ではなく、両者を同時に用いることで、音響を融合させていることを明らかにした。これが彼の楽曲の独自の特徴と言える。 次に、その着想の源泉について、作品成立背景を示すあらゆる資料から探った。そして、新たに完成した大オルガンを想定して作曲した同時代の作曲家と異なり、ラインベルガーの身近にあったオルガンは大規模なものではなく、彼の作品は特定の大オルガンのために作曲された可能性が低いことを示した。また、彼がモーツァルトの教会ソナタの校訂作業から少なからず影響を受けていたことも指摘した。 以上の考察から、ラインベルガーのオルガン協奏曲の音響設計は、同時代のフェティスやギルマンらと異なる環境にあった彼が、オルガンとオーケストラを融合した、より汎用的な作曲を指向したことによる成果であったと結論付けた。