著者
藤井 昌和 喜岡 新 山崎 俊嗣 沖野 郷子 田村 千織 関 宰 野木 義史 奥野 淳一 石輪 健樹 大藪 幾美
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

中央海嶺における火成活動は、固体地球から海洋へ熱・物質を供給する重要なプロセスであり、潜在的に全球の気候変動にも影響を与えている。海底拡大に伴う定常的なCO2放出量は2×1012 mol/yr(~0.041 ppmv)程度と考えられてきた(Resing et al., 2004)が、近年指摘され始めた海水準変動(海底での荷重変動)に伴う間欠的な海底マグマ噴出現象(Tolstoy, 2015, Crowley et al., 2015)が正しければ、中央海嶺からの一時的なCO2放出量はアイスコアや海底堆積物から復元される数百ppmの大気中CO2濃度と比較しても無視できないほど大きくなる可能性がある。これまでの古気候復元や将来予測では考慮されてこなかった中央海嶺火成活動の寄与を検証するため、中央海嶺からのCO2放出量を定量的に評価できる観測証拠の取得が望まれる。 そこで我々の研究グループは、全球気候変動における中央海嶺マグマ活動の役割を明らかにするため、学術研究船「白鳳丸」の次期3カ年航海へ新たな研究計画を提案した。本研究では、世界初の試みとなる長大測線の深海磁気異常と海底地形データの解析、および新たに開発する海底拡大–火成活動モデルに基づき、過去430万年間の中央海嶺のマグマ噴出量とそれに伴うCO2排出量の定量的推定を目指す。中央海嶺の拡大軸近傍において船上マルチビーム音響測深機によって海底地形を観測して海底地形の短波長変動を捉え、海底近傍での高分解能磁場変動を観測してグローバルな古地磁気強度変動と比較することで海底に詳細な年代軸を挿入する。研究対象は、南極大陸を囲むように分布する中央海嶺のなかでも、高いメルト生産量を持つ南太平洋の高速拡大海嶺およびインド洋–南大洋の低速–中速拡大海嶺とした。海水準変動に対するマグマレスポンスを海底地形記録から検出することに加えて、海水準変動の振幅が小さいと考えられている340万年以前の変動を捉えることを通して、”本当に海水準変動が中央海嶺メルトの噴出に直接的に作用し栓抜きのような役割を担っているのか?”を検証する。 本講演では、我々の観測計画の概要とこれまでに得られている知見を紹介するとともに、全球気候変動の理解における中央海嶺研究の意義を述べる。