著者
田村 紘基
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

ダイオキシン,ハロメタン,その他環境ホルモンなどの有機物質による環境水の汚染が大きな問題になっている.これらの有機汚染物質は一般に水への溶解度が小さく濃度は低いが,その毒性は大きい.したがって,希薄溶液についてそれらを検出定量し,除去処理を実施するために高効率の濃縮,捕集が必要になる.近年,細孔材料のナノ空間が活性の大きい特異な反応場であることが明らかにされ,表面ポテンシャルの重畳場であることによるものとされている.本研究では,細孔材料の反応活性なナノ空間に有機分子を取り込み,電荷を持たない有機分子鎖間に働く水素結合やvan der Waals力などの引力相互作用を利用して吸着を促進,増幅することを着想した.ナノ細孔材料としては層状金属酸化物に着目した.この物質の酸化物相は,金属イオンによる正電荷と酸化物イオンによる負電荷が均衡しないため電荷を持ち,層として二次元的に発達する.層間には反対符号のイオンが位置して層電荷を中和し三次元結晶を形成する.層間イオンはイオン交換可能で,固体バルク成分として多量に存在するため交換容量がきわめて大きい.陽イオンを層間イオンとする層状酸化物として四チタン酸塩,バーネサイト,亜鉄酸塩,陰イオンを層間イオンとする層状酸化物としてハイドロタルサイトを選び,その合成条件を確立した.汚染有機物分子のモデルとしては,陽イオン性官能基を持つアルキルアミンと陰イオン性官能基を持つアデノシン三リン酸(ATP)を選び,イオン交換によるこれらの取り込み反応と反応生成物の性状について調べた.サイズの大きな有機分子が飽和容量まで取り込まれたことから,ナノ空間の活性の高いこと,ならびに取り込まれた有機分子間の引力相互作用により取り込み反応の増幅が起こることが確かめられた.また,層間距離が分子鎖長に相当する増加を示したことから,有機分子は吸着層面に対し直立していることが示唆された.荷電基は両層には接触しないので,層間に整列する分子鎖間の引力相互作用によって層構造が維持されるものと考えられた.
著者
田村 紘基 大喜多 鋼治 片山 則昭 古市 隆三郎
出版者
公益社団法人日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.831-836, 1994-11-05
被引用文献数
1 7

土壌や底質の主要成分である酸化鉄(III)粒子と接触する自然水や汚染水の水質の理解とその変動の予測のために, 次の仮定の下で二価重金属イオンの吸着反応のモデル化を行った.1)重金属イオンと酸化物表面水酸基プロトンとの(1 : 1)及び(1 : 2)交換反応による表面錯体形成, 2)表面被覆率の増加に伴うGibbs自由エネルギー変化の線形増加による吸着抑制.モデルパラメーターとして表面錯体の安定度定数及び吸着抑制定数を決定し, イオンの吸着親和性を求めた.その序列はCo^<2+>&le;Zn^<2+><Cu^<2+><Pb^<2+>であった.これらのイオンの表面錯体の安定度定数とヒドロキソ錯体の安定度定数の報告値との間には, よい相関が認められた.これは, ヒドロキソ錯体と同様に, (格子)酸化物イオンから(吸着)金属イオンへの電子対供与を考える表面錯体モデルを支持する.