著者
田村 義也
出版者
東洋大学国際哲学研究センター(「エコ・フィロソフィ」学際研究イニシアティブ)事務局
雑誌
「エコ・フィロソフィ」研究 = Eco-Philosophy (ISSN:18846904)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.57-69, 2019-03

南方熊楠は、民俗学と文献研究による比較説話研究の領域では著作が多かった一方、生物研究においては、学術的な業績がきわめて少なく、研究者というより情報提供者(インフォーマント)というべきだと自然研究者たちから指摘されることがある。事実、生物学における南方熊楠のもっとも顕著な功績は、日本産変形菌標本をイギリスのリスター父娘に提供したことで、彼らを通じてそれらが学界への貢献となった。ところで、これと類似の間接的な学界への貢献を南方は、ディキンズの日本文学翻訳・研究業績に対しても行っている。このことの背後には、生物学と文学研究とに共通する、研究誠意とその成果を業績とするについての南方の独自の姿勢が存在すると思われる。