著者
丹下 健 田村 邦子 古田 公人
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.77-81, 1999-12-15 (Released:2017-04-03)
参考文献数
19

土壌酸性化が樹木に与える影響を明らかにすることを目的に,硫酸水散布による土壌酸性化の初期段階におけるクロマツ苗の生育を調べた。外生菌根菌に自然感染しているクロマツ苗を,有機物に乏しい土壌をつめた鉢に植栽し,酸性水散布の有無と摘葉(すべての1年生葉を除去)の有無を組み合わせた4処理区を設けた。酸性水を散布した処理区の表層土壌のpHは,6から5に低下したが,下層土壌のpHはほとんど低下しなかった。酸性水を散布した処理区の土壌水には,対照区より高濃度の塩基が含まれていた。いずれの処理区でも土壌水中のマンガンとアルミニウムの濃度は非常に低かった。クロマツ苗の当年葉の養分濃度に処理区間で有意な差はなかった。クロマツ苗の成長量は,対照区と比較して摘葉した処理区で小さく,酸性水を散布した処理区で大きかった。摘葉は,菌根菌への光合成産物の供給量の減少をもたらす要因であるが,土壌酸性化に対するクロマツ苗の反応への影響はみられなかった。菌根の形成率には処理区間で差がなかったが,酸性水の散布によってクロトマヤタケの子実体発生量が有意に減少した。クロマツ苗が影響を受けないような土壌酸性化の初期段階で,菌根菌に影響が表れることが明らかになった。