著者
益守 眞也 野川 憲夫 杉浦 心 丹下 健
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.97, no.1, pp.51-56, 2014-02-01 (Released:2015-04-07)
参考文献数
6
被引用文献数
13

東京電力福島第一原子力発電所事故翌年の2012年と2013年に,福島県南相馬市の森林において,林木に含まれる放射性セシウムの分布を調べた。放射性セシウムの大部分は枝葉と樹皮に検出されたが,個体や個体内の部位によって大きな濃度差があった。スギでは幹木部でも放射性セシウム濃度が 1 Bq/g を超える試料もあった。とくに高い位置の幹木部では辺材より心材に高濃度で分布していた。事故時に根系から切り離されていた幹の木部にも含まれていたことなどから,幹木部の放射性セシウムは経根吸収したものではなく枝葉などで吸収され移行したものと推察した。
著者
丹下 健 田村 邦子 古田 公人
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.77-81, 1999-12-15 (Released:2017-04-03)
参考文献数
19

土壌酸性化が樹木に与える影響を明らかにすることを目的に,硫酸水散布による土壌酸性化の初期段階におけるクロマツ苗の生育を調べた。外生菌根菌に自然感染しているクロマツ苗を,有機物に乏しい土壌をつめた鉢に植栽し,酸性水散布の有無と摘葉(すべての1年生葉を除去)の有無を組み合わせた4処理区を設けた。酸性水を散布した処理区の表層土壌のpHは,6から5に低下したが,下層土壌のpHはほとんど低下しなかった。酸性水を散布した処理区の土壌水には,対照区より高濃度の塩基が含まれていた。いずれの処理区でも土壌水中のマンガンとアルミニウムの濃度は非常に低かった。クロマツ苗の当年葉の養分濃度に処理区間で有意な差はなかった。クロマツ苗の成長量は,対照区と比較して摘葉した処理区で小さく,酸性水を散布した処理区で大きかった。摘葉は,菌根菌への光合成産物の供給量の減少をもたらす要因であるが,土壌酸性化に対するクロマツ苗の反応への影響はみられなかった。菌根の形成率には処理区間で差がなかったが,酸性水の散布によってクロトマヤタケの子実体発生量が有意に減少した。クロマツ苗が影響を受けないような土壌酸性化の初期段階で,菌根菌に影響が表れることが明らかになった。
著者
大澤 裕樹 丹下 健 小島 克己
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

アルミニウム集積に基づく耐性の分子構成要素の将来的な同定のために、アルミニウム超集積の鍵となる生理プロセスを発見する必要がある。私たちは、チャに代表される関連2科の8種の植物を調査し、7種の超集積植物の根の内皮細胞でプロアントシアニジン集積が共有されることを同定した。一方、調査対象の中の唯一の非アルミニウム集積種であるモッコク(Ternstroemia gymnanthera)では、ほとんどの通導木部においてプロアントシアニジン集積が認められなかった。葉の表現型と季節性の多様性にも関わらず、通導木部におけるプロアントシアニジン集積がこれらのアルミニウム超集積種間で共通の作用モードを持つ可能性が見いだされたことから、おそらくアルミニウムの長距離輸送がプロアントシアニジン輸送を伴うことが示唆された。しかしながら、アルミニウム集積性種の表現型の間の木部プロアントシアニジン含量にアルミニウム誘導パターンもアルミニウムとの分子化学量論のいずれも認められなかったことから、プロアントシアニジン以外の追加構成要素が木部のアルミニウム輸送に含まれる可能性があることがわかった。本成果は、定量的に木本植物種の特定科のアルミニウムおよびプロアントシアニジン集積パターンを分析した最初の包括的な研究となる。近縁種のアルミニウム集積の主要な生理学的プロセスに関するこれらの知見は、重金属、水と物質の長距離輸送、および葉の防御機構における有害金属超集積の分子進化と機能のより良い理解につながる可能性
著者
佐々木 恵彦 小島 克己 丹下 健 井出 雄二 八木 久義
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1991

これまでマングローブ林を農地開発した場所や開拓地で第四系海成堆積物を起源とした酸性硫酸塩土壌が問題となってきた。しかし農地開発や土木工事の規模が大きくなるにつれ、第三系堆積岩を起源とする酸性硫酸塩土壌の生成も顕在化してきた。本研究により、酸性硫酸塩土壌の母材となるパイライトを含む第三系堆積岩が、これまで問題となっていなかった場所も含め、広く日本に分布することがわかった。インドネシア東カリマンタン州やタイ南部でパイライトを含む第三系堆積岩を発見し、これまで第四系堆積物のみが問題となっていた熱帯地域においても、今後開発にともない第三系堆積岩を起源とする酸性硫酸塩土壌が問題となる可能性があること明らかにした。常磐自動車道の建設地で露出した古第三系堆積岩からは酸性化により特徴的にマンガンの溶出が起こり、植栽された樹木にもマンガンの過剰障害が顕著に現れた。このような強酸性土壌には低pHに対する耐性だけでなく、マンガン過剰に対する耐性が植栽樹木に要求される。このため比較的マンガン過剰に耐性があると考えられるシラカンバを用いて、マンガンによる障害の発生機構を調べ、光合成系に障害が発生することがわかった。熱帯産マメ科樹木のAcacia mangiumとA.auriculiformisは、低pHやマンガン、アルミニウムの過剰に対して耐性が大きく、熱帯での酸性硫酸塩土壌による荒廃地の森林再生に有効な樹種であることがわかった。さらなる耐性をもつ新樹木の作成にむけて、A.mangiumとA.auriculiformisの組織培養系を確立し、さらにA.mangiumの細胞培養系を用いて低pHとマンガン過剰に対する細胞レベルの反応を明らかにした。また高マンガン耐性細胞系の選抜をおこなった。これらの研究を基盤にして、酸性土壌に起因するストレスに対する耐性機構を解明し、また新たな耐性の付与を行い、荒廃地への造林樹種の開発と森林再生を目指して研究を進めて行く。
著者
丹下 健 益守 眞也 坂上 大翼 山本 福寿 本間 環
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

常緑樹の葉は、冬季であれば低温障害を受けることのない低温や降霜によって秋や春には甚大な被害を受けることが知られている。これは常緑樹が周囲の温度環境の変化に応じて樹体の低温耐性を変化させていることを示している。本研究では、暖温帯を主な生育地域とするスギを材料として、周囲の温度環境をどのように感知し、葉の低温耐性を高めたり低めたりしているのかを明らかにすることを目的に、実験的に地下部と地上部の温度環境を別々に制御して葉の水分特性がどのように変わるのかを調べた。葉の膨圧を失うときの水ポテンシャルは、秋から冬にかけて低下し、特に気温が5℃以下で急激に低下する季節変化を示す。この水分特性値の変化は、凍結温度の低下や細胞外凍結時の細胞内水の減少に対する耐性を高めるものである。このような季節変化が、地温を下げることによって早まり、暖めることによって遅れること、水分特性の変化には1週間程度の時間がかかることを明らかにした。この時、飽水時の浸透ポテンシャルの低下は明瞭でなかった。また、地温が5℃以下の時に葉を暖めても葉が低温耐性を失なわず、苗木全体を暖めることによって低温耐性を失う(可逆的な変化)ことを明らかにした。地温の低下に伴う葉の水分特性値や糖濃度の変化を検討し、膨圧を失うときの水ポテンシャルの低下に寄与しているのは、細胞内溶質の増加よりも、体積細胞弾性率(細胞壁の堅さ)の増大の方が大きいことを示した。以上の結果から、秋から冬にかけての地温の低下に応答して、スギの葉が低温に対する耐性を獲得することを明らかにした。季節はずれ降霜(晩霜、早霜)の害は、気温に比べて地温の季節変化が穏やかであり、急激な気温の低下に樹木が応答できないために発生すると考察した。
著者
大庭 喜八郎 呂 綿明 楊 政川 LIBBY Willia 津村 義彦 丹下 健 松本 陽介 戸丸 信弘 中村 徹 内田 煌二 荒木 眞之 山根 明臣 YANG Jeng-chuan LU Chin-ming GAVIN F.Mora 黄 啓強
出版者
筑波大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

1.目的現生のスギ科(Taxodiaceae)樹種には10属15種・1雑種(推定)が知られ、わが国の林業上重要な樹種の一つであるスギが含まれている。本研究はスギ科樹種を対象とし以下の3点を目的とした。(1)葉緑体等のDNA分析によりスギ科樹種の遺伝分化の分子的基礎を明らかにし、それらの系統分類を行う。(2)生態学、生態生理学さらに集団遺伝学の3分野からスギ科樹種の種特性を解明する。(3)この(1)と(2)の成果を基礎とし、スギをはじめとする各樹種の分類学的位置づけについて論じる。2.研究項目と研究方法(系統分類)(1)スギ科樹種の分子系統分類:PCR法を用いた葉緑体の特定遺伝子(rbcL,PsbA等)のRFLP分析(種特性に関する研究)(2)成育立地の生態学的研究:立地環境調査・植生調査、文献調査(3)生態生理学的研究:光合成特性・水分特性調査(4)集団遺伝学的研究:アイソザイム分析、DNA分析、文献調査(総合取りまとめ)(5)スギの系統分類学的位置づけとスギ科樹種の種特性の解明3.研究成果(1)系統分類スギ科樹種の系統分類と伴に針葉樹におけるスギ科の位置づけを明らかにするため、スギ科の10属15種・1雑種(推定)、ヒノキ科の6樹種、マツ科の18種、イチイ科の2種及びイヌガヤ科の1種について、DNA分析用試料として筑波大学や森林総合研究所等に植栽してある個体から若芽を採取した。これらの若芽から抽出した全DNAを用い、PCR法による6種類(frxC,psbA,psbD,rbcI,trnK)の遺伝子の増幅を行い、得られたPCR産物を用いて各遺伝子あたり約10種類の制限酵素によるRFLP分析を行った。得られた塩基置換のデータから、Wagner parsimony法とNJ法による分子系統樹を作製した。その結果、スギ科とヒノキ科は非常に近い科であり、Sciadopitys verticillata(コウヤマキ)はそのスギ科とヒノキ科から系統的に大きくことなることがわかった。(2)種特性(1)生育立地の生態学的研究:中華人民共和国に分布するTaiwania fousiana(ウンナンスギ)、Cunninghamia lanceollata(コヨウザン)、Metasequoia glyptostroboides(アケボノスギ)の各林分、さらにオーストラリアのタスマニアに分布するAthrotaxis cupressoides(タスマニアスギ)、A.laxifolia(ヒメタスマニアスギ)、A selaginoides(オオタスマニアスギ)、台湾に分布するCunninghamia konishii(ランダイスギ)及びTaiwania cryptomerioides(タイワンスギ)の各林分について、植生調査等の生態学的調査い、これらのスギ科樹種の構成林分の種組成が判明した。(2)集団遺伝学的研究:わが国に分布するCryptomeria japonica(スギ)の17集団から集団遺伝学的解析のための試料である針葉を採取し、アロザイム分析を行った。その結果、現在のこの種の分布が離散的でかつそれぞれの分布面積が小さいにも関わらず、種内の遺伝的変異量は木本植物の中では大きいが(H_t=0.196)、集団間の遺伝的分化は非常に小さいことがわかった。この遺伝的多様性の保有パターンの理由として、かつての分布は現在のものよりも広く、連続的なものであったこと、遺伝子流動がかなり起こっていること、寿命の長さが考えられた。一方S.verticillata(コウヤマキ)の6集団から集団遺伝学的解析のための試料である針葉を採取し、DNA分析のために全DNAを抽出した。制限酵素EcoRIで消化し、イネのrDNAをプローブとして用いてRFLP分析を行った。その結果、この種のrDNAの集団内の変異は大きく、さらにその変異は集団間で明らかに異なることがわかった。
著者
丹下 健 金 坂基 佐々木 惠彦
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.138-143, 1994-03-01

マツ材線虫病の進展過程におけるアカマツ成木の幹木部組織活性の変化を明らかにするために、枯死木の肥大成長停止時期の推定と自然感染によって枯死に至った立木の幹木部呼吸速度の変化を調べた。マツ材線虫病による枯死が毎年発生しているアカマツ林を調査地とした。枯死木の年輪解析から、肥大成長の停止は春材形成から夏材形成へ移行する時期と推定された。8月下旬にすべての針葉が褐変し枯死した供試木の呼吸速度は、7月下旬から減少し始めた。それ以前は、枯死しなかった供試木の呼吸速度と違いがなく、傷害呼吸による呼吸速度の増加はみられなかった。年越し枯れを起こした供試木の呼吸速度は、枯死する約1ヵ月前の5月下旬の時点ですでに他の供試木の呼吸速度の約50%に低下し、その後も減少傾向にあった。マツ材線虫病で枯死した供試木および枝条中にマツノザイセンチュウの存在が確認された供試木では、葉色等に異常がなく、測定部位の幹木部呼吸速度も低下していない時点で、日中に気温の上昇にともなう幹木部呼吸速度の上昇がみられ、すでに樹冠部で通水阻害が生じ、樹液流速度の減少が起こっていると推定された。