- 著者
-
田渕 久美子
- 出版者
- 日本教育方法学会
- 雑誌
- 教育方法学研究 (ISSN:03859746)
- 巻号頁・発行日
- vol.44, pp.1-11, 2019-03-31 (Released:2020-04-01)
- 参考文献数
- 21
本研究の目的は,学校におけるいじめのような人間関係の問題について,対立の解決過程から学び,市民社会の形成者としての子どもを育てる学校コミュニティと指導のあり方を考えることである。修復的正義の理論と実践は,共同体主義に基礎づけられている。また修復的正義の求めるコミュニティのあり方は,市民社会の維持に向けられたものである。身近な人権侵害や問題行動の予防と解決は,コミュニティのあり方と関連するため,学校においても,学校や学級が対話によって包摂的修復的であることが求められる。 ここで参照したい修復的正義の理論と実践において重要な方法原理は,対話と,対話による物語論的な他者理解,および再統合的恥づけ理論(ブレイスウェイト)である。アーメッドは,再統合的恥づけ理論をもとに,いじめに関する研究において,コミュニティとの関係で「恥のマネジメント」という概念を提示している。指導が烙印づけにならず,恥づけになり再統合がなされることが重要である。そのようにして問題行動の抑止,および問題が起こった後の人間関係の修復やコミュニティへの再統合は,包摂的修復的なコミュニティにおいて,よりよく行われる。もし,日本の学校がパターナリズムによらず,子どもの問題解決過程への主体的な参加を促すことができれば,子どもたちは市民社会を形成し維持する者として育つことができるのではないだろうか。