著者
斉藤 洋志 田畑 剛 田極 薫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Db1228, 2012

【はじめに、目的】 当院では、2005年度より理学療法士・作業療法士が摂食・嚥下リハビリテーション(以下嚥下リハ)を実施してきた。嚥下リハに介入してから6年が経過するため、当院で嚥下リハを実施した患者の実状を調べるとともに、当院における嚥下リハの効果を検証し、今後の課題を明らかにすることを目的とした。【方法】 2007年1月~2011年3月に当院で嚥下リハを実施した症例252名(男性143名、女性109名)を対象とした。診療記録より後方視的に調査し、嚥下リハを実施した症例の摂食状況のレベル(藤島ら、Lv.1~Lv.10、以下摂食レベル)について、嚥下リハ開始時と終了時で比較した。また終了時の動作能力を、端坐位保持では「自立群(監視を含む)、介助群」に分けて両群の終了時の摂食レベルを比較した。移乗・歩行動作では、終了時の動作能力を「完全自立、修正自立、監視、最小介助、中等度介助、最大介助、全介助、非実施」の8段階に分け、各動作能力と終了時の摂食レベルとの相関を調べた。統計学的解析にはSPSS Ver.12.0を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 この研究はヘルシンキ宣言に基づいて行い、個人情報保護のため得られたデータは匿名化し、個人情報が特定できないように配慮した。【結果】 平均年齢は82.3±10.1歳で、全体の90%が70歳以上であった。疾患別では呼吸器疾患が50%と最も多く、次いで脳血管疾患、消化器疾患、骨関節疾患、神経疾患、心疾患の順であった。また、摂食レベルを嚥下リハ開始時と終了時で比較したところ、1レベルでも改善したのは全体の79%、変化なしは18%、悪化は3%で、Wilcoxonの符号付き順位検定にて有意差(p<0.001)を認めた。嚥下リハ開始時ではLv.4以上(経口摂取あり)は全体の17%と少なかったのに対し、終了時ではLv.4以上は59%と増加し、多くの症例が経口摂取できるようになっていた。また、嚥下リハ終了時の端坐位保持能力を自立群と介助群に分け両群の摂食レベルを比較した結果、自立群の摂食レベルが高く、Mann-WhitneyのU検定にて有意差(p<0.001)を認めた。介助群ではLv.6(3食の嚥下食経口摂取+代替栄養)以上は全体の26%であるのに対し、自立群では54%と増加していた。移乗・歩行動作能力を8段階に分け、各動作能力と終了時の摂食レベルとを比較した結果、各動作能力が高ければ摂食レベルも高く、Spearmanの順位相関係数にて弱い相関がみられた(移乗動作r=0.412、歩行動作r=0.378)。【考察】 当院で嚥下リハを実施した症例の90%が70歳以上であった。この結果は「70歳以上の高齢者では安静時の喉頭位置の下降が著しく、喉頭侵入や誤嚥の可能性が高くなる(古川1984)」という報告と一致する。よって、特に70歳以上の患者に対して、頭部拳上運動、喉頭周囲筋群のストレッチなどの間接練習をさらに充実させる必要がある。また、嚥下リハ開始時と終了時の摂食レベルを比較すると、全体の79%で改善がみられ、当院において理学療法士・作業療法士が積極的に嚥下リハに介入してきたことは有効であったと考えられる。嚥下リハ終了時の端坐位保持能力では自立群の摂食レベルが高く、移乗・歩行の動作能力においても動作能力が高ければ摂食レベルも高い結果であった。摂食・嚥下障害と運動機能、動作能力との関連については多数報告されており(樋浦2005、太田2006、高井2006ら)、今回もそれを再確認することとなった。嚥下リハとともに基本的動作能力主体のリハビリテーションを実施し、患者の基本的動作能力を改善させることは、摂食・嚥下機能の改善にも有効であると考えられる。また、終了時の摂食レベルが改善しなかった21%については、今後検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 今回の研究により、当院における嚥下リハの実状が明らかとなった。また、摂食・嚥下機能と動作能力との関連性が再確認され、運動機能や動作能力について専門性が高い理学療法士・作業療法士が嚥下リハに介入していくことは有効であると考えられる。