著者
植田 康孝 木内 英太 西条 昇 田畑 恒平
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.25, pp.171-184, 2015-03

近年の大学教育において、特に学生集めに奔走する私学では、学生に分かり易い「現実」や「過去」を教育対象とする傾向がある。いわゆる「置きに行く」と呼ばれる行為である。しかし、本来「大学」とは長期的視座に立って時代や学生の一歩先、半歩先の方向性を提示する機関であるべきはずである。本稿は、このような反省に立ち、新たな時代概念として「インフォテインメント(Infotainment)」を提示して、概説するものである。「インフォテインメント(Infotainnment)=情報娯楽」とは,「エンタテインメント(Entertainment)=娯楽」と「インフォメーション(Information)=情報」を融合させた上位レイヤー概念である。アナログ文化に留まらず,「(デジタル)インフォメーション」と融合することにより,「エンタテインメント(Entertainment)」をより魅力あるものにすることが可能となる。「スマート(賢い)エンタテインメント」とも言うべき存在である。具体的には,初音ミクや末永みらい,プロジェクションマッピング,ライブ・ビューイング,AR(拡張現実)を用いた劇場演出などが挙げられる。一方でイノベーションの基に生まれる画期的な「(デジタル)インフォメーション」もスムーズに社会や市民に受け入れられる訳ではない。材料を削る切削加工,金型を用いた射出成形,板金やプレス成型などを代替する新しい製造技術として期待される「3D プリンター」も,フィギュアやキャラクターグッズ,アクセサリーなど「エンタテインメント」との融合を起点とすることにより,ユーザー・インターフェイスを格段に向上させる。「クール(カッコイイ)インフォメーション」とも呼ぶべき出発点はユーザーフレンドリーな存在である。平成27 年度カリキュラムから本学マス・コミュニケーション学科に創設される「エンタテインメント」コースは,これら「スマート・エンタテインメント」や「クール・インフォメーション」の上位レイヤーのコンセプトとして「インフォテインメント」を掲げ,これを学ぶものである。従来のアナログ中心の「エンタテインメント」教育や,効率性・利便性を中心とした工業的な「情報」教育とは,明確なる区別を目指すものであり,新たな時代の実践モデルを図る。平成26 年度においては,「プロジェクションマッピング」「3D プリンター」や「ユーストリーム中継」を用いた教育を実践し一定の教育効果を見た。平成27 年度は改組した上で,「人工知能(AI)ロボット」や「AR ウェアラブル端末」を用いた新たな「インフォテインメント教育」を導入する計画である。
著者
田畑 恒平 植田 康孝
雑誌
Informatio : 江戸川大学の情報教育と環境
巻号頁・発行日
vol.13, 2016-03-15

「インフォテインメント」とは、「エンタインメント」と「インフォメーション」を融合させた上位レイヤー概念であるが、田畑・植田[2015] は「プロジェクション・マッピング」を用いた「インフォテインメント」教育の実践事例を紹介した。プロジェクション・マッピングは、「映像投影」を意味する「プロジェクション(Projection)」と「配置し合わせる」を意味する「マッピング(Mapping)」の2 つの単語から成る合成語である。「リアル」(実体)と「ヴァーチャル」(映像)のシンクロナイズを行い、対象の情報や機能を拡張する(建物に命を吹き込む)ことを表すが、音楽ライブやテーマパークなどエンタテインメントとの親和性が非常に高い領域であり、「インフォテインメント」の代表事例と言える。たとえば、ダウンロードやサブスクリプションなど音楽配信によるデジタル化が急速に進展する音楽分野においては、ライブやイベントの重要性が増していることに伴い、観客が従来にない付加価値や会場の一体感を味合う仕掛けが求められており、「プロジェクション・マッピング」が有効な手法になり得る可能性がある。 音楽や映像配信の低価格化で音楽を「聴く」だけでなく、「見る」「体験する」価値を求める消費者が増えている。多くのデジタル財は限界生産費用がゼロであり、固定費を無視すれば再生産を無限に行うことが可能になる。市場は「完全競争」に近付き、市場メカニズムは先鋭化して、資源の流動性が高まり長期の均衡点は短期の均衡点に接近する。情報の不完全さがもたらしてきた「超過利潤」は消え、「先行者利得」が小さくなると、排他的な「体験価値」が人々のウェルビーイング(幸福)向上に貢献するようになる。凝った演出は一部のアーティストに限定されていたが、演出コストの低下で市場の裾野は広がりつつある。音楽ライブ・コンサートの国内市場は2014 年に2,721 億円と初めて音楽ソフトを上回った。ライブの演出費用は一般に全予算の1 ~ 2 割と言われるが、ファンを拡げるために演出に費用を掛けるアーティストは増えており、市場は今後も膨らむ見通しである。このような市場環境を踏まえて、導入教育を行った平成26 年度に続き平成27 年度においても、「プロジェクション・マッピング」を用いた教育を継続し、基礎段階から応用段階へと高次化することにより、新たな時代へのエンタテインメント企画や演出面での教育の可能性を得たため、本稿は田畑・植田[2015] からの改善点を中心に事例紹介する。「プロジェクション・マッピング」は物質ではない。光やネットワークであるため、建物を、都市を、自然を傷つけることなく「アート空間」に変換できる。「プロジェクション・マッピング」と「アート」が融合すれば、人類の知覚がより豊かになる「近未来」がやって来る。
著者
田畑 恒平 西条 昇 木内 英太 植田 康孝
出版者
江戸川大学
雑誌
江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
巻号頁・発行日
no.26, pp.291-300, 2016-03

クラウドとビッグデータ,人工知能などの情報通信技術(ICT)の発達によって今後必要となる能力や人材が今までとは大きく異なってくる。多くの人がそう感じ始めているが,問題であるのは,その動きがかなり急速なことである。必要とされる能力が急ピッチに変化するならば,その変化に応じた能力開発も急ピッチで行っていく必要がある。もちろん大学教育の内容も大きく変革していかなければならない。急速な時代変化に合わせた大学教育の変革の必要性を感じた植田・木内・西条・田畑[2015]は,「エンタインメント」と「インフォメーション」を融合させた上位レイヤー概念として,「インフォテインメント(Infotainnment)」を定義した。本学マス・コミュニケーション学科「エンタテインメント」コースにおいては,「ハロウィンパーティ」の企画および実際に自らが仮装して歌や踊りなどのパフォーマンスを行う「エンタテインメント」の要素と,イベントをライブストリーミングで配信するという「インフォメーション」の要素を融合させた教育を2015 年10 月30 日に実践した。動画配信サービスは,ユーザーが投稿した動画を共有する「動画共有」と,ユーザーがライブ放送を共有できる「ライブストリーミング」の2 つから成るが,前期(2015 年5 月8 日)に行った動画共有サービス「Vine」による実習に加えて,後期でライブストリーミングによる実習も付加することにより,動画配信サービスに対する知識とスキルを学生は習得してくれたことを確認できたため,本稿に事例紹介する。LINE がスマホで動画を配信す「LINE ライブ」は,2015 年12 月10 日に始まったばかりのサービスであるが,視聴者は対話アプリ(日本国内は5,800 万ユーザー)と別の専用アプリをダウンロードすることにより,公演中のコンサートをスマートフォンでどこでも見ることが可能である。ドワンゴが手掛ける「ニコニコ生放送」サービスに続く生中継サービスが登場することにより,テレビに代替するサービスになると注目されていたが,インディーズアイドル「原宿駅前パーティーズ」による2015 年12 月24 日限定のクリスマス公演は128 万8,000 視聴という驚異的な数字を記録し実証する形になった。また,テイラー・スウィフトやアデルが世界ツアーの映像を「アップル・ミュージック」でコンサート映像を独占配信したり,リアーナが世界ツアーの映像をサムソン「ミルクミュージック」で,コールドプレイがロサンゼルスで行ったコンサート映像をJay-Z「タイダル」で配信したりするなど,人気アーティストが積極的に活用するようになっている。「ライブストリーミング」は,テレビ番組では視聴者が少なくて放送できないようなリアルタイムの映像を届けることができるため,テレビ番組に飽き足らず「テレビ離れ」を進めた若者世代が視聴するメディアに位置づけた結果,テレビの求心性は解体しその啓蒙機能は著しく減衰,レガシー化されつつある。更に,レッド・ブルやコカ・コーラなどの有力広告主が「ライブストリーミング」に対してテレビを代替するメディアとしての有効性と成長性に期待し,この流れに拍車を掛けている。このようにライブ配信は,ライブアイドルにとって不可欠のサービスになっており,芸能事務所や音楽関係を志す学生が多いエンタテインメントコースにおいては習得することが求められる重要技法の一つに位置づけられる。
著者
田畑 恒平 植田 康孝
雑誌
Informatio : 江戸川大学の情報教育と環境
巻号頁・発行日
vol.13, 2016-03-15

最近話題となることが増えている「ドローン」は、無人飛行機(UAV= Uninhabited Aerial Vehicle)の呼称である。ドローンは、1950 年代に活躍した名女優マリリン・モンローがドローンのプロペラを取り付ける作業をしていた軍工場の広報誌に写真が掲載されたことをきっかけにハリウッドデビューを果たすなど、エンタテインメント分野との親和性が歴史上、非常に高い領域である。われわれ人間が暮らしているのは「3 次元」の世界であるが、現実には「高さ」方向の展開にはかなり制約があり、自由度はあまり得られて来なかった。コンサートやライブ会場において、アーティストは宙に浮く訳ではなく、あくまでクレーンやゴンドラが動く範囲内でしか自由に移動することができなかった。そのためエンタテインメント分野の行動様式も「2.5 次元」に留まっていたが、小型化され高度なフライトコントローラーを備えたドローンの出現により、本当の意味での「3次元」的な動きが可能になった。日本では、ラグビー五郎丸歩選手が所属する「ヤマハ発動機」が、農薬散布目的で市場をリードしてきたが、2013 年に大ヒットしたNHK の朝の連続ドラマ「あまちゃん」のオープニングで、海辺にいる主人公・天野アキ(能年玲奈)を空から追い掛ける映像にドローンが使用されたことで、急に注目されるようになった。また、近年では、グラミー賞を受賞した米国の4 人組ロックバンド「OK Go」のミュージックビデオ「OK Go: I Won't Let You Down」や、Perfume の「NHK 紅白歌合戦」におけるライブ演出など、映像効果や舞台演出として用いられるようになり、「3 次元」の世界を楽しんでもらえる環境が整備されてきた。3D 映画「STAND BY ME ドラエもん」では、スマートフォンで操作することによって上下左右360 度で視点を変えられ、実際にタケコプターで空を飛んでいるかのような体験をできるサイト「のび太と空中散歩」がインターネット上に公開された。映画においても、「007 スカイフォール」「トランスフォーマー」「アイアンマン3」などの作品でドローンが撮影に使用されるようになっている。テーマパークのディズニーランドは、複数のドローンでつり下げられた大きな操り人形を動かす新たなアトラクションの特許を取得済みであり、今後導入することを計画している。 一昔前に枕詞として頻繁に用いられた「放送と通信の融合」は最近では死語になった。スマートフォンの普及により誰もが自ら情報発信できるようになった現在、メディアに拘っているのはメディアの内側に閉じ籠もった人達だけであり、もはや「放送」や「インターネット」といったメディアの区別は意味を持たない時代になっている。しかし、そういう時代であればこそ、メディアに囚われない「差別的コンテンツ」が比較優位性を獲得できる。植田・木内・西条・田畑[2015]は、「エンタインメント」と「インフォメーション」を融合させた上位レイヤー概念として、「インフォテインメント(Infotainnment)」を定義したが、ドローン(無人飛行機)は音楽ライブやテーマパークなどエンタテインメントを「2.5次元」から「3次元」へと拡張してくれる存在であり、「インフォテインメント」を実現する「比較優位ツール」と言える。江戸川大学マス・コミュニケーション学科エンタテインメントコースは、平成27 年度において、「ドローン(無人飛行機)」を用いた教育を導入し、新たな時代へのエンタテインメント企画や演出面で教育効果を得たため、本稿に事例紹介する。
著者
田畑 恒平 植田 康孝
雑誌
Informatio : 江戸川大学の情報教育と環境
巻号頁・発行日
vol.13, 2016-03-15

ネット動画、CG 映像、アニメ、ゲーム、メディアアート、映画、テレビなど、現代のデジタル社会の中で、映像文化が占める位置づけはますます重要且つ緊密になっている。このような状況の中で、ウェアラブル端末の登場は、「現実空間」に位置する人間と、ビッグデータとして「ヴァーチャル空間」に蓄積される映像との関係を変えてしまう革命である。ウェアラブル端末によって実現する「AR 空間」や「VR 空間」は、新たなプラットフォームになる可能性がある。Vine からInstagram などのSNS、ゲーム実況からウェアラブル端末などのゲームは、「映像に何が映っているか」ではなく、「映像でいかにコミュニケーションするか」を重要とする、「映像コミュニケーション」時代の到来を示す。「グーグル・グラス」や「アップル・ウォッチ」のようなウェアラブル端末が普及した近未来においては、映像を撮影する条件は常に「ヴァーチャル空間」に記録されるようになる。我々が映像を見る時、更には映像を撮る時、「ヴァーチャル空間」は無意識のうちに表出される人間の特徴を余さず捉え記録する。「プレイステーションVR」向け「サマー・レッスン」では、キャラクターからも見られているという「緊張感」を常にプレイヤーに与える。プレイヤーが「ヴァーチャル空間」を覗く時、「ヴァーチャル空間」はプレイヤーに様々な映像を提示するが、プレイヤーは引き換えに自分の「反応」を「ヴァーチャル空間」に提供しなければならない。ヘッド・マウント・ディスプレイを装着し、周囲を見渡すと、頭の向きを変える行為もデータとして「ヴァーチャル空間」に与え分析されることになる。アルバート・アインシュタインは100 年前に発表した「一般性相対理論」で、「空間」と「時間」は連続体(「時空」と呼んだ)であると論じたが、2016 年2 月11 日、「時空のさざ波」である「重力波」の直接観測が報告された。ドローンが「3 次元」世界の「高さ」方向の制約を開放するものであるとしたら、ウェアラブル端末は縦、横、高さの「3次元」に「時間」軸を加え、「3次元→4次元」を実現するものである。 江戸川大学マス・コミュニケーション学科エンタテインメントコースは、「ウェアラブル端末」を学生が近未来の方向性を考える上で適した課題であるとの認識の下、平成27年度の演習・実習に導入した。「現実空間」と「ヴァーチャル空間」の境目(マジックサークル)は崩れ始め、かつては夢物語であった4次元的な製品やサービスが実現する。「現実」と「ヴァーチャル」を織り交ぜて、面白いモノ、便利なモノを生み出す。「今までにない時代が見えてくる、違った4 次元世界が見えてくる」ようになり、社会や経済を刷新する仕事に携わるすべての人々が持つべき視点であり、「現実空間」に閉じて生きることはもはや許されない時代となる。今までの情報革命は、あくまでもモニターの向こう側、つまり情報空間の中でのみ生活が便利になった程度だった。AR、VR の普及で今後は、情報が現実さえも凌ぐ社会になる。米IDC の調査によれば、2020年には500億台の機器がネットに接続し、2013年(44兆バイト)から10 倍の440 兆バイトのビッグデータが作られる。ICT技術の進歩により、2045 年には「ヴァーチャル空間」(コンピュータの能力)が「現実空間」(人類の能力)を凌ぐという説がある。このような世の中は、プライバシー問題、セキュリティ問題を深刻にするという懸念も根強いが、社会に出る若者に必要な知識を身に付けさせることが「大学」の責務であるとすれば、ICT の力を前向きに捉え使いこなす「英知」を育成することが、文部科学省が国立大学に教員養成系や人文社会科学系の学部・大学院の統廃合や社会的要請の高い分野への転換を迫る、「人文系の大学で教えている学問のほとんどがもはや時代遅れになっている」という指摘を受けるなど昨今厳しい批判に晒されている文系学部が目指すべき「大学教育」となる。