- 著者
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西条 昇
木内 英太
植田 康孝\n
- 雑誌
- 江戸川大学紀要 = Bulletin of Edogawa University
- 巻号頁・発行日
- vol.26, 2016-03-15
2015 年は,アイドルシーンにとって画期的な年であった。ジャニーズやAKB48 を中心としたアイドル・ブームはまだまだ堅調であったが,これが「仮想空間」にも拡大,一般化して「アイドルアニメ」がエンタテインメント市場を席捲した。現実のアイドルは近年,ちょっとでも容姿や体型が落ちるとインターネット上で「劣化」と騒がれてしまうが,アニメのアイドルは「劣化」せず純粋にグループのために頑張る理想の集団としてファンに映り,「ラブライブ!」「アイドルマスター」「うたの☆プリンスさまっ♪」の3 大作品が大ヒット,「ラブライブ!」から派生した声優9 人組によるユニット「μ’s(ミューズ)」が2015 年末の「第66 回NHK 紅白歌合戦」に出場,2015 年流行語大賞の候補に熱狂的ファンを表す「ラブライバー」が選ばれるなど社会現象化した。「ラブライバー」が成立した背景には,「ヴァーチャル空間」拡大による「ファン母数増加」と「ファンコミュニティ内つながりの緊密化」の2 点が挙げられる。現代アイドルの魅力は,具体的な素の存在に基づく「現実空間」における「キャラクター」性と,アニメやマンガのキャラクターに通じるように,類型化されたイメージの中から選び取られた「仮想空間」における「偶像」性の二重構造を持っていることにある。「現実空間」における「キャラクター」と「仮想空間」における「偶像」が合致した時,アイドルの魅力は一気に高まる。一方,その乖離が露呈すると,虚構性が興ざめ感を惹起する危険性も兼備する。かつて安室奈美恵やSPEED などアーティスト志向が強かったグループはアイドルとして捉えられることに対し拒絶する動きを見せたが,SNS や動画配信な「ヴァーチャル空間」が拡大してファンとの距離が近く感じられるようになった現在においては,アーティスト然と振る舞うことは逆にカッコ悪く映り,身近に感じさせられるアイドル的行動がファンを増やす点で効果的になっている。ファンになってもらうためには,SNS やイベントを通して「人となり」を伝えることが求められる。アイドルはイベントで握手や写真撮影に応じることに加え,公式サイトやFacebook,Twitter でグループや自らの現況を積極的に発信して,実際に触れ合う「現実空間」とネットを通じた「ヴァーチャル空間」の両空間において,ファンに「楽しみ」を提供している。また,新曲が出るとPV の動画が「ヴァーチャル空間」に流れるため,ファンは無料で身近にアイドルに接することが可能となっている。男性ファンは女性アイドルに対して,潜在的に疑似恋愛的な視線を向ける傾向がある。可愛い女の子が一生懸命全身全霊でファンのために人生の応援歌を歌い踊り演じる。アイドルが頑張るから,自分も一緒に頑張ろうという意識の下,アイドルを応援する。AKB48 で有名な「恋愛禁止」ルールは,個々のメンバーが切磋琢磨し高め合うことに一生懸命であれば恋愛している暇なんてないだろうという意味づけであり,結果として男性ファンの疑似恋愛を守ることに成功している。一方,女性アイドルファンにとって,ジャニーズアイドルを中心とする男性アイドルは理想の恋愛相手という存在に留まらず,別機能を備えた存在となっている。ジャニーズアイドルは,「わちゃわちゃ感」と呼ばれる男性同士の親密さや絆を有する「現実空間」における「キャラクター」をアピールして,アイドルに付随する女性の存在を無化する「偶像」になることに成功している。以前の女性を救い上げる男性イコール王子様,選ばれる女性というジェンダー役割は変質して,男性アイドルは,身近な自分の好みと合致させやすい「キャラクター」であると同時に,自分とは異性愛関係を結べない「偶像」(仮想空間における「偶像」)でもある。女性ファンにとって,男性アイドルは手の届かない遠い「偶像」ではなく,現実空間に極めて近いところにいる「キャラクター」として認識されている。