著者
田畑 泰江
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

クロピドグレルの活性代謝物生成に関与するCYP2C19の遺伝子多型と、臨床効果の関連性が近年数多く指摘されてきており、活性代謝物の生成量がクロピドグレルの臨床効果発揮に重要であると考えられる。最近の研究からクロピドグレルの活性代謝物生成経路に関与するCYPは詳細に同定されてきており、クロピドグレルから2-オキソ-クロピドグレルへの代謝と、2-オキソ-クロピドグレルから活性代謝物への代謝の2段階で反応が進行すると考えられている。このため、両段階の反応に中心的に関与するCYP2C19の活性が、クロピドグレルの臨床効果に大きく影響を与えると考えられ、プロトンポンプ阻害薬との併用によってCYP2C19の活性が阻害された場合、クロピドグレルの臨床効果が低下するとする報告も存在する。一方、CYPを介した薬物間相互作用としては代謝酵素の阻害だけではなく、代謝酵素の誘導を介した薬物間相互作用も良く知られている。クロピドグレルの活性代謝物の生成経路を考慮すると、CYP2C19の誘導は活性代謝物の生成量増大につながると考えられ、このため、CYP誘導剤とクロピドグレルを併用した際には、クロピドグレルの臨床効果あるいは副作用の増大が生じる可能性が考えられる。そこで、東大病院においてクロピドグレルが処方されている患者をリストアップし、併用薬剤およびその併用時期情報を網羅的に収集することで、相互作用の可能性検証を現在も継続している。またCYPP2C19の誘導に関しては、他のCYPと同列に比較した詳細ない情報が乏しかったため、レポーターアッセイ系を用いて実際に誘導活性の評価を行った。その結果、CYP3A4ではPXRによる誘導が強く、CYP2B6ではCARによる誘導が強く観察される実験系を構築した。従来はCYP2C19の誘導にはPXRが中心的と考えられてきたが、むしろCARを介した誘導の方が強く観察された。今後は、この点を考慮してCARを介した誘導剤に焦点を移して検討を継続したい。