著者
小野寺 弘道 田邉 裕美 梶本 卓也 大丸 裕武
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.59-66, 1995-12-30
被引用文献数
6

奥羽山脈中央部に位置する焼石岳南麓の多雪斜面における積雪動態と樹木の生態的特性との関係について調べた。低木形態をとる落葉広葉樹林の大半は厳冬期季節風に対する風背斜面に分布していた。風背斜面には積雪グライドに起因する雪ジワと雪割れ目が広範囲にわたって分布し,しばしば全層雪崩の痕跡も観察された。林地には積雪挙動による浸食地形がみられた。他方,風衝斜面には中・大径木の根返りに伴って形成されたピットとマウンドが数多く観察され,斜面形は凹凸が連続する階段状であった。風背斜面に優先する樹種は,ヒメヤシャブシ,タニウツギ,ブナなどであり,風衝斜面に優占する樹種は,ブナ,マルバマンサク,ハウチワカエデなどであった。風背斜面の森林は風衝斜面の森林と比較してサイズがきわめて小さく,傾幹幅が異常に大きい葡匐形態をとっていた。傾幹幅には樹種による違いが認められるとともに,優占順位の高い樹種の傾幹幅は風背斜面では大きく,風衝斜面では小さかった。風背斜面においては積雪移動圧に対し,風衝斜面においては積雪沈降圧に対して適応した樹種が個体維持に有利であると考えられた。いずれの斜面にも出現するブナは,積雪移動圧よりもむしろ積雪沈降圧が卓越する積雪環境に適応した,耐雪性の高い樹種であると考えられた。多雪斜面に生育する樹木の個体維持は,風背斜面においては主に萌芽・伏条による更新に,風衝斜面においては主に実生による更新に依存していると考えられた。そのような樹木の生態的な特性は積雪環境の違いを反映し,群落分布に係わる積雪環境要因としては,単に積雪の量だけではなく,積雪の変態過程の違いというような質的要素や,積雪グライド・雪崩などの積雪挙動が重要な役割を果たしていると考えられた。