著者
由良 嘉啓
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、外国為替市場の注文情報のヒストリカルデータを解析し、その数理モデル化を行った。26年度までの研究により注文情報の揺らぎと価格変動の関係は、溶媒中を揺らぐコロイド粒子の確率的な揺らぎを記述するランジュバン方程式で近似できることがわかっている。本年は、システムの離散性の強さを特徴付けるクヌッセン数を外国為替市場において新規に導入した。クヌッセン数は主に統計物理学や流体力学の分野で用いられるシステムを特徴づける量のひとつであるが、この値によりシステムを記述する方程式が連続極限または離散のどちらかに分類できる。例えば、大きなクヌッセン数を取るシステム(気体)であれば、ボルツマン方程式のような離散モデリングが必要となる。一方で、小さなクヌッセン数を取るシステム(流体)であれば、ナビエストークス方程式のような連続極限での近似が可能となる。外国為替市場の価格変動のモデリングはブラックショールズモデルなどを代表とした価格変動を連続極限でモデル化するものが存在する。この連続極限でのモデリングの妥当性を議論することを目的として、複数の通貨ペアの時系列データから、新たに外国為替市場におけるクヌッセン数として定義した量の統計的な性質を調べた。結果、観測した時間範囲においては、離散性が強く連続極限のモデリングが妥当ではない時間帯が観測された。大部分の時間帯は連続極限のモデリングは妥当ではあるものの、ごく短時間、特に市場が暴騰暴落するケースにおいては妥当ではないことが示唆されている。市場が不安定になり価格が一方的にどちらかの方向に進むケース(暴落や暴騰)の状態では、クヌッセン数の値は非常に大きくなり、システムの離散性が強くなることがわかった。