著者
甲斐 江美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.9, 2019

<p>【はじめに】慢性痛に対する治療は,痛み患者を包括的に捉えて行う生物心理社会的アプローチが主軸であり,集学的アプローチは高いエビデンスレベルに基づき広く推奨されている.今回痛みによってADLや意欲低下を認めた症例に対しても上記介入が効果的であったので報告する.</p><p>【対象】80歳代,女性.診断名;第一腰椎圧迫骨折.既往歴;うつ病,両橈骨遠位端骨折</p><p>【現病歴】自宅内で転倒しA病院へ救急搬送.上記診断で翌日入院.保存加療にて13病日,当院回復期病棟へ入院.本症例は同年当院入院歴あり,独居自立レベルで退院するが今回の受傷となった.前回退院時評価:10m歩行;10秒/22steps.TUG;12秒31.FIM;106点.やる気スコア;19点.HDS-R;26点.</p><p>【経過および評価】入院時:NRS;3~5.入院翌日より歩行器で自立レベル.FIM;85点.やる気スコア;18点.HDS-R;28点であった.21~30病日;誘因なく下腹部痛出現し,動作時痛・圧痛およびADL低下を認めた.下行結腸憩室炎(以下,憩室炎)の診断あり.NRS;8~10.FIM;78点.36~46病日;一時的な動作改善を認めるが,臥床傾向で意欲低下も持続している.FIM:82点.59~79病日;やる気スコア;31点.FIM;85点.多職種介入及び痛み行動日記を開始する.「リハビリを終えて魚釣り大会をし,私が釣り160点で1番.とても楽しい日.腰が痛いのも忘れていた」と日記に記載あり. 95~101病日;痛みの緩和に自覚あり意欲も改善する. 103~105病日;「さっき洗面台まで自分で歩いてみたら歩けたの.日記も書こうと思って」と発言あり.最終評価10m歩行;10秒13/21steps.TUG;13秒78.NRS;3~5.FIM;104点.やる気スコア;27点.HDS-R;30点.施設退院となる.</p><p>【考察】入院時は圧迫骨折の痛みに順応して各動作が行えていたが,憩室炎が契機となった痛みから抗生剤治療後も「動くと痛いから動きたくない」といったカタストロファイジング(以下,破局的思考)の形成と不活動,ADL低下を招いた.更に「興味はあるけどやりたくない」といった意欲低下が続いた.しかし,精神的な安定や賦活される出来事があると一時的に痛みや歩行が改善する場面を見受けられたことから器質的要素以外も痛みやADLに影響していると考えた.そこで,78病日より多職種共同した介入を実施した.OTでMTDLPから興味を引き出し孫へ年賀状を作成した.NSでは内服を毎回取りに行くという病棟での役割を与えた.他者や物事に対して興味が無くなっていた本症例にとってOTやNSの介入は,他者交流や物事の成功体験をする機会となり意欲の改善に繋がった.PTでは痛み行動日記を用いた介入を行った.痛みだけでなく印象に残った出来事を記し,内容はセラピストと共有した.自身の生活を客観的かつ前向きに見つめ直す機会が,破局的思考の変化や痛みの自己管理,自発的な活動を促すことができた.本症例に合わせた集学的アプローチが痛みの軽減に繋がり,更にはADLの再獲得に至ったと考える.今後も器質的要素以外の面にも焦点を当て,包括的にアプローチしていきたい.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>ヘルシンキ宣言に基づき対象者には発表の趣旨を説明し同意と承諾を得た.</p>