著者
妹塚 裕行 安部 信子 中村 和夫 甲斐 之尋
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.15, 2019

<p>【目的】</p><p>理学療法を行う上で、姿勢評価は病態を把握するために重要な評価の1つであるが、臨床では視診によって評価されることが多く、客観性に欠ける。客観的な姿勢評価として、レントゲン(以下X線)画像、スパイナルマウス、デジタル画像解析等があるが、機器の設置が必要な事や高価な事、また患者への負担(被爆)があり、臨床の中で簡便に行える評価ではない。先行研究において安価で簡便な方法として、デジタル傾斜計を用いて胸椎後弯角(以下TK角)を定量的に測定する方法が報告されている。しかし、デジタル傾斜計を用いて腰椎前弯角(以下LL角)、仙骨角(以下SS角)を検証した報告や、これらをX線画像との相関性を報告したものは見当たらない。本研究の目的は、健常者を対象にX線画像で測定したTK角、LL角、SS角とデジタル傾斜計で測定した値の相関関係を検証し、デジタル傾斜計を用いての姿勢評価の有用性を検討する事とした。</p><p>【方法】</p><p>対象は健常成人40名(男女各20名、平均年齢37±10.2歳)であった。X線撮影とデジタル傾斜計測定は同時に行い、測定姿勢は前方1mの目印に目線を向け、両上肢を前方で組み、両下肢は肩幅程度に開いた静止立位とした。X線画像解析はSchwabらの計測法を参考にTK角、LL角、SS角を測定した。デジタル傾斜計測定値はTh5、6棘突起の傾斜度とTh11、12棘突起の傾斜度の和を傾斜計TK角、L1、2棘突起の傾斜度とL5、S1棘突起の傾斜度の和を傾斜計LL角、S1、2棘突起の傾斜度を傾斜計SS角とした。デジタル傾斜計の測定回数は2回とし、平均値を代表値とした。</p><p>デジタル傾斜計による傾斜計TK角、傾斜計LL角、傾斜計SS角の測定者間級内相関係数は、それぞれ0.97、0.91、0.94であった。統計解析はPearsonの相関係数を用い、危険率5%未満を有意とした。</p><p>【結果】</p><p>TK角26.9±6.1°傾斜計TK角28.3±6.1°、LL角43.4±9.2°傾斜計LL角39.1±6.8°、SS角28.4±6°傾斜計SS角22.6±6.5°であった。</p><p>X線画像とデジタル傾斜計の測定値の相関は、TK角は強い相関関係(r= 0.75、p < 0.01)、LL角は中等度の相関関係(r= 0.62、p < 0.01)、SS角は強い相関関係(r= 0.75、p < 0.01)を認めた。</p><p>【考察】</p><p>本研究の結果、デジタル傾斜計でのTK角、LL角、SS角の値はX線画像の測定値と有意な相関関係が認められ、健常者の姿勢評価に有用である事が示唆された。近年、姿勢変化が隣接関節に及ぼす力学的影響についての報告が散見されており、姿勢評価・アプローチの意義は高くなっている。これらの事からも、デジタル傾斜計を用いる事は、臨床で姿勢評価・アプローチする際に簡便かつ定量化した方法として有用な一手段となりうる可能性があると考える。しかし、デジタル傾斜計は経皮的測定であるため、デジタル傾斜計の測定値は矢状面における脊椎の相対的位置関係を把握するものである事は念頭に置くべきである。</p><p>今後は、臨床応用するために姿勢障害を有する者を対象に検証していきたい。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究はヘルシンキ宣言に則り行った。当院スタッフに説明して研究への参加を呼びかけ、研究参加はあくまでも自由意志であり、参加しないことにより医療上または社会的な不利益は生じないことを説明した。対象者には事前に書面と口頭により研究の目的、内容、考えられる危険性等を医師と共に説明し、同意書に署名を得た上で計測を実施した。また、レントゲン撮影は医師の監視の元に行い、本研究データは匿名化し、個人情報管理に留意した。</p>
著者
新崎 義人 嶺井 陽 砂田 和幸 上門 あきの 仲榮眞 盛保 古川 浩二郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.2021, pp.105, 2021

<p>【はじめに】</p><p>近年、重症下肢虚血(chronic limb-threatening ischemia 以下CLTI)症例に対する治療は、血行再建、創傷治癒、再生医療の発展により切断部位を最小限とし下肢を温存する救肢が求められている。CLTIをはじめとした足部潰瘍は難治性とされ、一度治癒に至っても再発率が高く、装具や足底圧計測器等を用いて再発予防を念頭に置いた評価、運動療法を行う必要がある1)2)。今回、閉塞性動脈硬化症によるCLTI に対し左下肢総大腿動脈- 膝窩動脈バイパス術、左第3-5 趾切断を施行された症例に対し歩行や足底圧の評価、短下肢装具の作成と患者教育を実施したので報告する。</p><p>【経過】</p><p>症例は70 代男性で既往歴に左被殻出血による右片麻痺(Brunnstromstage 上肢III、手指II、下肢III)を呈している。歩行時に左足をぶつけ、足趾に創傷及び潰瘍を形成した。精査の結果、CLTI と診断され、左下肢総大腿動脈- 膝窩動脈バイパス術、左第3-5 趾切断および植皮を施行された。術後1 日目(1POD)より理学療法を開始し、2POD より歩行を開始した。歩行はT-cane を使用しており、その特徴として術側である非麻痺側の立脚期に術創部への荷重が過多となっていた。歩行による再潰瘍形成が懸念されたため、足圧分布測定システム(go-tec 社:GP mobile date)を使用して裸足の状態、短下肢装具及び除圧パットを装着した状態での各々の歩行時の左下肢前足部への荷重負荷量を測定した。荷重負荷量の最大ピーク圧は裸足では1.6N/cm2、短下肢装具及び除圧パットでは、0.1N/cm2 であった。患者指導の際には、歩行指導として術側前足部に圧が集中しないように、揃え型歩行を促した。術創部の自己管理指導としては、毎日の創部観察を促した。その後53POD で創部管理の為、他院への転院となり、60POD で自宅退院となった。84POD の当院外来時では患部の創傷は無く、歩行を含むADL は自立していた。</p><p>【結語】</p><p>CLTI に対する運動療法についての報告は稀少であり、現時点では画一されたプロトコールや介入手法は確立されていない。またフットケアにおいても同様であり、対象者に応じた評価・介入が重要である。本症例においては、足圧分布測定システムを用いた評価、創部管理の介入が再潰瘍形成防止の一助となったと考える。</p><p>【参考文献】</p><p>1) 榊 聡子:重症下肢虚血の理学療法 トータルフットマネジメントの実際. PTジャーナル・第50 巻第9 号827-832, 20162) 松本純一:足部潰瘍の自己管理指導の実際. PTジャーナル・第50 巻第9 号 833-838, 2016</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>症例およびその家族に理学療法介入および本学会への症例報告に関する説明を実施し、同意を書面で得た。</p>
著者
甲斐 江美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.9, 2019

<p>【はじめに】慢性痛に対する治療は,痛み患者を包括的に捉えて行う生物心理社会的アプローチが主軸であり,集学的アプローチは高いエビデンスレベルに基づき広く推奨されている.今回痛みによってADLや意欲低下を認めた症例に対しても上記介入が効果的であったので報告する.</p><p>【対象】80歳代,女性.診断名;第一腰椎圧迫骨折.既往歴;うつ病,両橈骨遠位端骨折</p><p>【現病歴】自宅内で転倒しA病院へ救急搬送.上記診断で翌日入院.保存加療にて13病日,当院回復期病棟へ入院.本症例は同年当院入院歴あり,独居自立レベルで退院するが今回の受傷となった.前回退院時評価:10m歩行;10秒/22steps.TUG;12秒31.FIM;106点.やる気スコア;19点.HDS-R;26点.</p><p>【経過および評価】入院時:NRS;3~5.入院翌日より歩行器で自立レベル.FIM;85点.やる気スコア;18点.HDS-R;28点であった.21~30病日;誘因なく下腹部痛出現し,動作時痛・圧痛およびADL低下を認めた.下行結腸憩室炎(以下,憩室炎)の診断あり.NRS;8~10.FIM;78点.36~46病日;一時的な動作改善を認めるが,臥床傾向で意欲低下も持続している.FIM:82点.59~79病日;やる気スコア;31点.FIM;85点.多職種介入及び痛み行動日記を開始する.「リハビリを終えて魚釣り大会をし,私が釣り160点で1番.とても楽しい日.腰が痛いのも忘れていた」と日記に記載あり. 95~101病日;痛みの緩和に自覚あり意欲も改善する. 103~105病日;「さっき洗面台まで自分で歩いてみたら歩けたの.日記も書こうと思って」と発言あり.最終評価10m歩行;10秒13/21steps.TUG;13秒78.NRS;3~5.FIM;104点.やる気スコア;27点.HDS-R;30点.施設退院となる.</p><p>【考察】入院時は圧迫骨折の痛みに順応して各動作が行えていたが,憩室炎が契機となった痛みから抗生剤治療後も「動くと痛いから動きたくない」といったカタストロファイジング(以下,破局的思考)の形成と不活動,ADL低下を招いた.更に「興味はあるけどやりたくない」といった意欲低下が続いた.しかし,精神的な安定や賦活される出来事があると一時的に痛みや歩行が改善する場面を見受けられたことから器質的要素以外も痛みやADLに影響していると考えた.そこで,78病日より多職種共同した介入を実施した.OTでMTDLPから興味を引き出し孫へ年賀状を作成した.NSでは内服を毎回取りに行くという病棟での役割を与えた.他者や物事に対して興味が無くなっていた本症例にとってOTやNSの介入は,他者交流や物事の成功体験をする機会となり意欲の改善に繋がった.PTでは痛み行動日記を用いた介入を行った.痛みだけでなく印象に残った出来事を記し,内容はセラピストと共有した.自身の生活を客観的かつ前向きに見つめ直す機会が,破局的思考の変化や痛みの自己管理,自発的な活動を促すことができた.本症例に合わせた集学的アプローチが痛みの軽減に繋がり,更にはADLの再獲得に至ったと考える.今後も器質的要素以外の面にも焦点を当て,包括的にアプローチしていきたい.</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>ヘルシンキ宣言に基づき対象者には発表の趣旨を説明し同意と承諾を得た.</p>
著者
野崎 貴博 本多 一平 相良 優太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.52, 2019

<p>【目的】当院では、2017年より医師、理学療法士らが中心となり小・中学生ソフトボール・野球競技者に対して、投球障害予防フォーラム(以下フォーラム)と称し医学知識の啓発、メディカルチェック、コンディショニング指導などの障害予防活動を行っている。そこで今回、中学野球選手に対して障害実態の把握を行い、今後の障害予防の啓発活動に役立てる事を目的にアンケート調査を実施した。</p><p> </p><p>【方法】対象は2017年と2108年の12月に当院で2度実施したフォーラムに参加した中学野球選手100名(13.4歳、全例男性)、保護者74名(41.7±5.2、男性34名、女性40名)の計174名とした。方法は集団調査法を用いた記名方式でのアンケート調査とした。選手に対しては投球数と練習頻度・時間、疼痛部位及び対応・報告相手を、保護者に対しては疼痛発生時の活動休止期間や対応、試合への出場判断、医学的知識の必要性について調査し、選手の障害の実態と保護者の障害認識を調査した。</p><p> </p><p>【結果】</p><p>①中学野球選手における障害の実態</p><p>フォーラムに参加した選手100名中、複数回答による疼痛部位は肘関節が47%と最多であった。疼痛時の対応として「練習を継続する」と回答した者は56%であり、痛みがある事を誰かに伝えたかの質問に対して「親に伝えた」の回答が45.1%であった。1日の全力投球数で70球を超える者は7%にみられ、練習時間・頻度は5.5日/週、平日2.26時間であった。</p><p>②保護者の障害認識</p><p>選手の疼痛発生時の対応として、「医療機関を受診させる」と回答した者が62.7%であり、その第一選択として「病院」が77%であった。痛みがある時の試合出場についてでは「ポジション変更」「子どもの希望があれば」「無理にでも」などの疼痛を有したまま出場させている者が47.1%であった。また、トレーナーの必要性を感じるかの質問に対して98.6%が「感じる」という回答であった。</p><p> </p><p>【考察】入江らは、中学野球選手の障害調査において2260名中41.1%に肘痛がみられたと報告し、平山や竹中らは投球障害の発症要因として投球数増加や練習時間の過多などを報告している。今回の調査において、肘痛保有者が47%と入江らの報告と類似した結果であった。また、投球数や練習時間の制限が順守されていた一方、56%の選手が疼痛を有したまま競技を継続していた。保護者の対応として医療機関の受診を促すものの、試合の出場に関しては疼痛を有したまま出場させていた。これらの問題は医学的病態理解の乏しさや現場での障害状況判断の困難さによるものではないかと推測している。</p><p>今後の課題として、医学的観点からの安静・休止と現場での活動休止の認識共有が必要であると考えられる。そのためには、保護者や指導者に対し障害に対する正しい知識と理解が求められ、中学生の指導現場においても医学的知識を持った理学療法士の介入が疼痛保有者の症状慢性化を予防できるものと思われた。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し、チームの指導者及び対象者の保護者に本研究の主旨を書面で説明し同意を得た。また本研究への参加は自由意志によるものとし、同意を得た後でもその撤回が可能であり、たとえ同意しなくとも不利益を被ることがない旨を説明した。</p>
著者
松野 竜工 橘木 康文 足立 貴志 中西 和毅 木山 良二 榊間 春利 井尻 幸成
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.2019, pp.102, 2019

<p>【目的】一般に成長期野球選手の投球障害はover useや不良な投球動作により生じる。特に、肩肘の故障しやすい投球動作として、「体の開き」と「肘下がり」が考えられている。これは投球動作指導の重要なポイントになるが「体の開き」と「肘下がり」の関係性に関してはよく分かっていない。今回、投球動作時の体幹及び骨盤回旋運動に着目し、「体の開き」と「肘下がり」の関係性について運動学的に検討した。</p><p>【方法】対象は中学生野球選手32名とした。ポジション及び現在と過去3ヵ月における疼痛の有無に関するアンケート調査を施行した。胸骨柄と第2仙椎後面に3軸加速度センサーを貼付し、スローカメラを用いて投球動作を撮影した。投球動作はワインドアップ期(knee highest position:KHP)-後方引込期-並進運動期-コッキング期(foot plant:FP)-加速期(maximum external rotation:MER)までの投球動作を解析した。体幹及び骨盤の回旋運動は、投球動作開始前の静止立位時の体幹及び骨盤角度を基準とした。「肘下がり」はMER時の肩肩肘ラインにて判断した。「肘下がり」の有無により2群(「肘下がり」群、「肘下がり」無し群)に分類し、体幹回旋角度(胸骨回旋角度)と骨盤回旋角度を各投球相で比較した。さらに「肘下がり」角度と、骨盤と体幹の相対角度との関係性を検討した。統計学的解析には対応のないt検定,Pearsonの相関係数を用い、有意水準を5%未満とした。</p><p>【結果】32例中のポジション別内訳は投手5名、捕手3名、野手24名であった。現在疼痛を有する群は13例(43%)、過去3ヵ月に疼痛が認められた群は23名(71%)であった。疼痛の有無と肘下がり角度の比較では有意差は認められなかった。32例中、14名(44%)の選手に「肘下がり」が認められた。体幹及び骨盤の回旋タイミングは、「肘下がり」群において早期に体幹及び骨盤回旋運動が生じ、体幹及び骨盤回旋角度は増加していた。特に「肘下がり」無し群と比較してFP時の体幹回旋角度は有意に大きかった(p<0.05)。「肘下がり」角度は骨盤と体幹の相対角度と正の相関(r=0.55、p < 0.05)を認めた。</p><p>【考察】今回、肘下がりと疼痛の関連性は認められなかったが、「肘下がり」を呈した選手は、早期に体幹と骨盤の回旋運動が生じ、回旋角度が増加していた。また、「肘下がり」角度が大きい選手は骨盤に対する体幹の回旋角度が大きく、いわゆる「体の開き」を生じていることが示された。成長期野球選手は一般にMER時の肩外転角度が小さく、肘が下がり、体の開きが早く上肢に依存した投球動作になりやすい。今回の結果は、「体の開き」と「肘下がり」には投球動作における骨盤及び体幹回旋運動のタイミングや回旋角度、骨盤に対する体幹回旋角度が密接に関連していることが示唆された。</p><p> </p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究は霧島整形外科倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号:00012)。また研究の実施に際し、対象者に研究について十分な説明を行い、同意を得た。</p>