- 著者
-
甲田 直美
- 出版者
- 滋賀大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 2000
文彩を施された言語と,普段我々が"文法性"などということを意識しない透明な言語との対立点の整理,および事態の再現性に関わる文法的表現効果の可能性の追求を行った。現実世界から表現世界への移行の過程,つまり芸術や物語テクスト表現のもつフレーム,枠の特殊な組織の問題について整理した。テクストにおける再現性を考察する際に判別役となるのは,我々の日常の認識や体験性の制約からくる文法制約が創造的言語使用においては必ずしも守られないという点である。しかし,このような差異は,一談話領域に固定のものではなく,歴史記述や叙事的物語作品においても,語る視点が完全に排除されることはなく,感情や評価,文間の配列構成(因果関係や,注釈による),様態化作用を伴う発話主体標識によって,テクスト構成者による介入現象が起こる。視点の問題と再現芸術について,表現と表現されるものを有している芸術の諸形式と視点の問題は直接関連している。たとえば,「枠」の問題に固有の構成的側面,つまり芸術テクストにおける枠を表現する形式的方法は談話分析において「視点」の術語によって記されてきた。視点と関連して,出来事の記述を行う人物の空間・時間的位置(すなわち空間と時間の座標軸における語り手の位置の確定)の問題,構成の手法の整理を空間・時間のパースペクティブの面を中心に検討した。