著者
畔高 政行 小西 信一郎
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
日本獸醫學雜誌(The Japanese Journal of Veterinary Science) (ISSN:00215295)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.851-858, 1988
被引用文献数
4 26

1985年冬東京地区の, 約150頭を飼育する繁殖場で元気消失, 食欲不振, 発咳, 鼻漏を特徴とした犬の呼吸器疾患の流行を認めた. 罹患犬はほとんどが約3ヶ月齢で, 全発症例33頭のうち症状の激しかった4頭を剖検したところ, 主要病変は肺に限られ, 気管支上皮細胞には核内封入体が多数認められた. また合計6頭から犬アデノウイルス2型(CAV-2)と犬パラインフルエンザウイルス(CPIV)が分離され, 両者が混合感染している例も見られた. ウイルス検索と同時に実施した細菌検索の結果, Bordetella (B) bronchisepticaが純培養状に分離された例があったが, 他の分離菌株は正常菌叢の構成菌で, 特に単独で有意の菌は認められなかった. またこれらの犬における分離ウイルスに対する抗体調査の結果, CAV-2の抗体はウイルス未分離の犬で90%以上が保有しており, 高い抗体価を示す例もあった. 一方CPIVの抗体陽性例は2例のみであり, CPIVは本流行の主因とは考えられなかった. 以上の結果より, 本流行はCAV-2の感染を主とし, CPIV とB. bronchisepticaおよび正常細菌叢を構成する菌の二次増殖が関与して起こしたkennel cough complexと考えられ, わが国における本病の最初の確認および病因の解析となった.