著者
番匠 美玖
出版者
北海道大学大学院文学院
雑誌
研究論集 (ISSN:24352799)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.107-137, 2019-12-20

本研究の目的は,武蔵御嶽神社の狼信仰に関わる人々が,武蔵御嶽神社で行われている狼信仰の対象であるオイヌ様と既に絶滅しているニホンオオカミとの関係を,どのようにとらえているのかを明らかにすることである。筆者は日本では神として崇められていたニホンオオカミが,種としては絶滅してしまっている,という状況に疑問を持った。ニホンオオカミと日本人との関係という点においては,かつては畑の害獣であるシカやイノシシを狩ってくれる存在として,農民はオオカミを盟友としてみていたとも言われている(Knight 2003)。しかし何故,現在ニホンオオカミは絶滅し,狼信仰は残っているのだろうか。 こうした状況を踏まえて本稿では,狼信仰の実態調査を通じて狼信仰の対象であるオイヌ様と,既に絶滅しているニホンオオカミとの関係に焦点を当てた。その結果,もともとは同一の存在であったニホンオオカミとオイヌ様だが,江戸時代後期から明治維新にかけての社会やニホンオオカミの変化の中で,人に及ぼす被害は「ニホンオオカミ」が,憑物落としや昔ながらの害獣除けは「オイヌ様」が行っているものと分岐させて捉えることで,矛盾したこの状況を説明しようとしたのではないか,という仮説が浮かび上がった。 第一章では動物に関する研究を人類学の分野で行う意義や,近年の人類学の流れについて概説する。第二章では動物としてのオオカミと,信仰の中での狼について世界的な視野を交えつつまとめる。第三章からは筆者がフィールドワークをした武蔵御嶽神社の概要と歴史について述べ,第四章ではフィールドワークについて報告している。第五章ではフィールドワークの分析を行い,本稿の問いに答えている。