著者
白井 康仁
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.3, pp.131-136, 2014 (Released:2014-03-10)
参考文献数
20

ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)はジアシルグリセロール(DG)をリン酸化し,ホスファチジン酸(PA)に変換する脂質キナーゼであり,これまでに10種のサブタイプが報告されている.周知のようにDGはPKCの活性化因子であり,産生されるPAも様々な酵素の活性を調節することから,DGKはPKCの抑制やPAの産生を介して生体内において重要な働きをしていると考えられている.しかし,神経系に多く存在するβサブタイプの機能は長い間不明であった.そこで,我々はDGKβのノックアウト(KO)マウスを作製し,その神経系における機能を調べた.その結果,DGKβKOマウスは,記憶障害と感情障害を示した.また,この感情障害は10日間のリチウム処理で改善した.一方,DGKβKOマウスから調製した海馬および大脳皮質初代培養細胞は,突起の分岐の数およびスパイン数が有意に減少していたが,DGKβを過剰発現させることで形態異常は回復した.さらに, DGKβKOマウスの海馬および大脳皮質において,スパイン密度が減少していることを確認した.これらのことから,DGKβは神経細胞の形態を調節・維持することにより神経ネットワークの形成,ひいては記憶や感情などの脳高次機能において重要な働きをしていることが明らかになった.本総説では,このDGKβKOマウスから得られた知見を中心に,神経系におけるDGKβについて概説するとともに,DGKβの記憶障害や感情障害の予防薬および改善薬のターゲットとしての可能性と問題点について論ずる.
著者
杉本 日出雄 白井 康仁 小幡 俊彦
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.254-261, 1987
被引用文献数
3

気管支喘息児の施設入院療法の効果を身体面の因子から検討した.対象は, 国立療養所東埼玉病院に入院した入院時重症度が全例重症の気管支喘息児87名である.身体面の因子として, 身長, 体重, 呼吸機能, 運動負荷後の呼吸機能の最大低下率, acetylcholine閾値, 50m走, 持久走のタイムを測定し, 入院時, 1年後, 退院時の値の比較を行った. その結果, 1.身長, 体重はそれぞれ増加したが, Zスコアーで比較すると, それぞれの時期の間に有意な差は認められなかった.2.呼吸機能は予測値に対する割合でみると, FVCは入院時から正常な値を示したが, FEV_<1.0>, PEFRは低値を示し, 1年後, 退院時においても有意な改善は認められなかった.3.運転負荷後の呼吸機能の最大低下率は1年後からの有意な改善が認められた.4.acetylcholineの閾値は1年後から有意な改善が認められた.5.50m走, 持久走は1年後から有意な向上が認められた.以上より, 施設入院療法により身体面の因子に対しても改善がはかれることがわかった.