著者
白石 知代 松田 文子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.159, pp.1-16, 2014 (Released:2017-03-21)
参考文献数
15

本稿は「ぬく」を後項とする複合動詞「V-ぬく」を取り上げ,コア理論を援用してその意味を記述したものである。これまで「V-ぬく」の大半は本動詞「ぬく」の意味が希薄化した統語的複合動詞であること,これらの「V-ぬく」には「貫徹」(例:走りぬく),「極度」(例:悩みぬく)などの用法があることが指摘されている(姫野,1999)。しかしこのような説明だけではL2学習者に納得のいく説明とはなりにくい。そこで本稿では本動詞の意味から複合動詞の意味推測が可能となることを目指し,本動詞「ぬく」の意味を「場所Yの中からYの外へXが移動することを表すが,その移動には必ず「抗う力」が伴う」と捉え直し,「ぬく」のコア図式を提示した。こうすることで,本動詞「ぬく」と語彙的/統語的複合動詞「V-ぬく」の意味の共通性を示すことが可能となる。
著者
松田 文子 白石 知代
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.150, pp.86-100, 2011 (Released:2017-02-17)
参考文献数
9

L2学習者は複合動詞の意味を理解しようとするとき,前項動詞(V1)の意味と後項動詞(V2)の意味を組み合わせて理解する方略(「V1+V2ストラテジー」)を用いる傾向が強いが,それは必ずしもうまくいかないとする指摘(松田,2004)を踏まえ,本稿ではL2学習者の使用する「V1+V2ストラテジー」に働きかけられるような複合動詞の意味記述を試みた。事例として多義動詞「かける」を後項とする複合動詞「V-かける」(V=前項動詞)を取り上げた。「V-かける」は,「壁に絵を立てかける」のようにどこかに何かを斜めに依拠させる用法,「相手に水を浴びせかける」のように覆うようなイメージが強調される用法,また「赤ちゃんに語りかける」のように相手に向けてというニュアンスが強い用法などがあるが,本稿ではすべての「V-かける」の意味に本動詞「かける」の意味が反映していると捉え,それがどのように反映しているかを考察した。