著者
白石 陽子
出版者
理化学研究所
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

Cupidin(別名Homer2a/vesl2Δ11)は、後シナプス肥厚部(PSD)に局在する蛋白質であり、代謝型グルタミン酸受容体1α/5型、イノシトール三燐酸受容体、リアノジン受容体などと結合し、またShankとの結合を介してGKAP-PSD95-NMDA受容体とも複合体を形成することから、細胞内情報伝達経路に関わる蛋白質群を局所的に集める役割を担っていると考えられている。さらに、Cupidinは細胞骨格因子である繊維状アクチン、アクチン結合蛋白質であるdrebrin、そして細胞骨格制御因子である活性型Cdc42とも相互作用することから、後シナプスの情報伝達だけでなく形態形成という観点からもCupidinの生理的役割を検討する必要がある。そこで本研究ではCupidinおよび上記蛋白質群との結合能を欠失した変異型Cupidinを発現するアデノウイルスベクターを作成し、初代培養系海馬神経細胞にシナプスが形成される時期に感染させ、後シナプスであるスパインの形態を観察すると共に、シナプス分子を免疫組織学的に検出することによりシナプス形成に及ぼす影響を解析した。その結果、野生型Cupidinを強制発現させた場合、より成熟したシナプスに見られるマッシュルーム型形態を持つスパインの出現頻度が高くなり、またシナプス分子の免疫組織学的シグナル強度が増大した。反対に種々の変異型Cupidinのなかには、それらを強制発現させた場合、異常なスパイン形態と共に未成熟なシナプス形成が誘導されるケースが観察された。すなわちCupidinと複合体をなす分子群の組み合わせのなかにはスパイン形態に影響をおよぼす分子間相互作用が存在し、PSDにおけるCupidinの存在はスパインの成熟にともなうシナプスの成熟にも関与することが示唆された。