著者
白砂 孔明 島村 成美 妹尾 琴実 大津 彩華 白築 章吾 大口 昭英 岩田 尚孝 桑山 岳人
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第108回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.OR2-19, 2015 (Released:2015-09-15)

【目的】胎盤は妊娠に必須の器官である。ヒトでは胎盤形成時に栄養膜細胞の浸潤および子宮らせん動脈の置換が起き,胎盤内が生理的な低酸素環境(酸素濃度5−8%)になる。しかし,重度の低酸素環境(1−2%酸素濃度)に陥ると胎盤から抗血管新生因子(sFlt-1,sEng)や炎症性サイトカインが産生され,妊娠高血圧腎症につながると考えられている。酸素濃度が胎盤機能に影響すると考えられるが,胎盤細胞を用いた多くの研究は通常酸素下(21%)で実施されている。本研究では,軽度な低酸素環境で胎盤細胞を培養した場合,通常酸素環境下とは異なる応答性を示すと考え検証した。 【方法と結果】 ①ヒト栄養膜細胞株Sw71を5%および21%酸素濃度で培養し,炎症性サイトカイン・インターロイキン6(IL-6),sFlt-1およびsEng,細胞増殖率を測定した。5%酸素でSw71細胞を培養すると,21%酸素下と比較してIL-6,sFlt-1およびsEng濃度が低下し,細胞生存活性が増加した。②炎症応答性を検証するためにリポポリサッカライド(LPS)を添加した。両酸素濃度下でLPSはIL-6分泌を刺激したが,LPS誘導性IL-6濃度は5%酸素下において21%酸素下よりも低かった。また,Toll-like receptor 4(TLR4:LPS受容体)発現は5%酸素下で低下した。③低酸素で炎症応答性が変化したため,低酸素誘導因子HIF1αを検討した。21%酸素下ではHIF1αはほとんど発現しなかったが,5%酸素下ではHIF1α発現が増加した。HIF1誘導剤である塩化コバルトを添加すると,TLR4発現が低下するとともに,LPS誘導性IL-6分泌も低下した。また,HIF1抑制剤であるPX-12を添加すると,酸素濃度に関わらずIL-6分泌が増加した。 以上から,軽度な低酸素環境で栄養膜細胞株を培養すると,sFlt-1およびsEngの分泌や炎症応答が低下した。また,5%酸素下ではHIF1が作用することで炎症応答を抑制的に制御することが分かった。