著者
黒木 政秀 白須 直人
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

光線力学療法とは、生体に無害な特定波長の光を光感受性物質に照射し、惹起した光化学反応で細胞を傷害する方法で、低侵襲性で安全性が高い。近年報告されたフタロシアニン系化合物IRDye700DXは、生体透過性が高い690 nmの近赤外光線(NIR)で励起される極めて有望な光感受性物質であるが、正常細胞にも光毒性が及ぶという問題は残されている。我々は、腫瘍関連抗原CEAに特異的なヒトモノクローナル抗体C2-45をIRDye700DXで標識した複合体(45IR)を作製し、胃癌や大腸がんなどのCEA産生癌細胞を殺傷する光免疫療法(PIT)の開発を試みた。これまでCEA産生癌細胞に対するインビトロでの増殖抑制効果は確認できているため、今回はインビボでの抗腫瘍効果を検討した。ルシフェラーゼ遺伝子を恒常発現するCEA産生癌細胞を背側両体側に皮下移植したヌードマウスに対して45IRを腹腔内投与し、その24時間後、インビボ・イメージング装置IVISによる蛍光観察によって45IRの腫瘍への集積を調べた。次いで、右体側の腫瘍に対してNIRを照射することでPITを実施した。その結果、45IR投与群では、光照射終了直後においても、非照射の左側腫瘍と比較して顕著な細胞死が認められた。また、腫瘍径の計測からも、45IR投与マウスの被光照射腫瘍にのみ有意な効果が認められた。以上より、45IRを用いたPITはCEA産生癌細胞に対して極めて選択的かつ強力な抗腫瘍効果を示すことが判明した。この方法が実用化できれば、腕バンドやコタツ型のNIR照射装置を開発し、手術や化学療法あるいは放射線療法で根治できなかった患者さんの癌細胞、とくに血中やリンパ管に流出して転移の原因となる癌細胞に対して、仕事中や就寝中の治療で根治できることが期待される。