著者
松丸 恒夫 松岡 義浩 白鳥 孝治
出版者
Japan Society for Atmospheric Environment
雑誌
大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.279-285, 1985-08-20 (Released:2011-11-08)
参考文献数
12
被引用文献数
3

ヨウ素精製工場に隣接するナシ園において, ナシの葉の葉肉部がネクロシス化し, 激しい場合は落葉するという異常症状が発生した。そこで原因究明をねらいとして現地実態調査を行った。その結果は以下のとおりである。1) 異常症状は葉脈間の葉肉部にネクロシスを生ずるタイプと葉縁部にネクロシスを生ずるタイプに分けられた。前者には品種「幸水」,「新水」が, 後者には「八幸」,「八君」が相当した。2) 異常症状の発生には品種間差が認められ,「幸水」,「八幸」が感受性,「長十郎」が抵抗性,「新水」,「八君」はその中間であった。3) ヨウ素, 塩素, 硫黄, 臭素, フッ素成分の葉分析の結果, 被害葉のヨウ素含有率のみが異常に高いことが認められた。4) ヨウ素精製工場周辺のナシ以外の植物調査の結果, 6種類の植物葉にネクロシス又はクロロシスを伴う異常症状が確認された。また, それらの植物葉を分析した結果, すべての葉に高濃度のヨウ素が検出された。5) ナシの葉の異常症状の原因はヨウ素の過剰集積によるもので, ヨウ素の飛来源は隣接するヨウ素精製工場であろうと推察された。また, 異常症状の発現する葉中ヨウ素含有率の限界値は, 感受性の「幸水」,「八幸」で20~50ppm (乾物当たり) と考えられた。