著者
百瀬 伸平 小山田 美咲 柏倉 由佳 高橋 千央 田口 彩乃 大川 孝浩 山﨑 敦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0964, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】健常者の反張膝の有無による歩行時の関節角度,関節モーメントに有意差がないことの報告(河原ら,2010)はみられるが,ヒール歩行と反張膝との関連についての報告はみられない。今回,反張膝の有無が裸足歩行およびヒール靴を着用した歩行について運動学的分析を行ったので報告する。【方法】対象は,1年以内に整形外科疾患のない足のサイズ24.5cmの健常女性22名とした。実験に先行してプラスチック角度計にて立位で膝関節伸展角度を計測し,5°以上のものを反張膝群,5°未満のものを非反張膝群とした。関節角度・関節モーメントの計測には,光学式三次元動作分析装置(VICON Nexus,VICON社)および床反力計(Force Platform OR6-7,AMTI社)を用いた。サンプリング周波数100Hzで計測したデータをもとに,股関節屈曲-伸展,膝関節屈曲-伸展および外反-内反,足関節背屈-底屈の関節角度および関節モーメントを算出した。なお関節モーメントは,対象者の体重で除して正規化を行った。裸足歩行およびヒール歩行は自由歩行速度で行った。ヒール靴はヒール高7cmのものを使用した。ヒール靴に慣れさせるため,トレッドミル上で3分間の歩行練習を行った。この際の歩行速度は,事前に算出した10m歩行速度とした。反射マーカの変位から左足趾離地から右踵離地(立脚中期)を決定し,この期間の関節角度・関節モーメント(最大値)を分析対象とした。また,表面筋電図の計測には多チャネルテレメータシステム(WEB-7000,日本光電社)を使用した。内側広筋,外側広筋,半腱様筋,大腿二頭筋,前脛骨筋を対象に,サンプリング周波数1,000Hzで計測し,単位時間当たりの積分筋電図を求めた。これらのデータは,各筋の最大等尺性収縮時の積分筋電図をもとに正規化し,積分筋電図(%IEMG)を算出した。統計学的分析には,SPSS Statistics21を使用した。反張膝群,非反張膝群ともに,裸足歩行およびヒール歩行の比較を対応のあるt検定にて行った(有意水準5%)。【結果】関節角度は,非反張膝群,反張膝群ともにヒール歩行で,股関節屈曲,膝関節屈曲・内反,足関節底屈角度がやや増加していた。股関節伸展モーメントは,非反張膝群,反張膝群に関わらず,裸足に比してヒール歩行で有意に高値を示していた(p<0.01)。膝関節では,非反張膝群の伸展モーメントが裸足歩行に比してヒール歩行で高値を示していた(p<0.01)。また外反モーメントについては,両群ともにヒール歩行で有意に高値を示していた(p<0.001)。一方の足関節底屈モーメントは,非反張膝群,反張膝群ともにヒール歩行で低値を示したが,有意差は認められなかった。%IEMGは,非反張膝群において内側・外側広筋にてヒール歩行で有意に高値を示していた(p<0.001)。また反張膝群では,半腱様筋においてヒール歩行で有意に低値を示していた(p<0.01)。【考察】ヒールを着用した立位姿勢では上半身後方移動,骨盤後方移動を行うことで,姿勢の不安定性を制御している(友國ら,2008)。つまり,ヒールを着用することで足関節が底屈位に固定されて下腿が前傾するため,膝関節屈曲,股関節屈曲位とする代償がみられたことになる。今回の結果では,股関節伸展および膝関節伸展モーメントが,裸足歩行に比してヒール歩行時に高値を示しており,動的状況下においても同様の制御が伺えるものと考えられる。膝関節の屈曲角度は,両群ともにヒール歩行でやや増加していたが,膝関節モーメントは非反張膝群のみで有意に高値を示していた。一方の筋活動をみると,反張膝群では半腱様筋においてヒール歩行で有意に低値を示していた。つまり,反張膝群のヒール歩行では,膝関節の屈曲モーメントをあまり必要としないことが示唆される。また,外反モーメントが両群ともにヒール歩行で有意に高値であったことは,足部の運動の関与が伺える。裸足歩行では荷重量の増大に伴い,足部は内反から外反へと運動の変換がなされるが,支持面の狭いヒール歩行ではこの運動が十分になされない。つまり,膝関節内反角度の増大に伴い,外反モーメントの発揮が求められたことが示唆される。【理学療法学研究としての意義】現代社会においてはヒール靴の使用頻度は非常に高いものの,女性に多い反張膝と関係性を示した研究はみられなかったことから,理学療法士として社会的貢献の一助となりえる。