- 著者
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矢口 悦子
木勢 峰之
米田 香
山﨑 敦
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2010, pp.AbPI1081, 2011
【目的】<BR> ファッションとしてハイヒール靴を履く女性が多くみられる.しかし,足の痛みや腰痛を訴える者も多く,ハイヒールが身体に与える影響について様々な報告がされている.その中で体幹に関しては,腰椎の過剰な前彎が生じる,脊柱のアライメントに変化はないなど一定の見解が得られていない.また,ヒールの高さの違いによる体幹への影響を検討した研究は少ない.そこで本研究では,異なるヒール高にて体幹筋活動とアライメントの変化を検討したため報告する.<BR>【方法】<BR> 本研究では,健常成人女性8名(年齢22.5±1.9歳,身長160.4±3.2cm,体重52.9±2.5kg)を対象とした.計測課題は, 3,5,7cmのハイヒール靴を装用した静止立位の3条件とした.靴は同一形状の物を使用し,24.5cmのサイズとした.また,比較として裸足での計測も合わせて行った.安静立位で,2m前方の目線の高さの印を注視させ,各条件で3回ずつ計測を行った.<BR> 計測ではフォースプレート(zebris社製 FDM1.5)にて足圧中心(以下,COP)を求め,踵骨後縁からの距離を算出した.アライメントの計測には,超音波動作解析装置(zebris社製CMS-20S)を用いた.受信機を被験者の背側に設置し,指標として左側の耳垂,肩峰,第7頚椎~第3仙椎棘突起,上前腸骨棘,上後腸骨棘,大転子,膝関節前面,外果を触診し,ポインターにてマーキングを行った.ソフトウェアにはZebris WinSpineを使用し,各指標の空間座標を計測した.ここで得られた座標から,胸椎後彎角,腰椎前彎角,骨盤前方傾斜角を求め,脊柱を除く各指標に対し,外果を基準とした矢状面上での移動距離を算出した.COP,アライメントではそれぞれ3回の平均値を求めた後,裸足と各条件の変化量を算出した.また,筋活動の計測には表面筋電図計TELEMYO2400R(NORAXON社製)を用い,電極を左側の外腹斜筋,内腹斜筋,胸・腰部脊柱起立筋,腰部多裂筋に貼付した.3秒間の安定姿勢における筋活動を1,500Hzでサンプリングした後に平滑整流化し,裸足時の筋活動で正規化し%IEMGを算出した.統計処理にはPASW Statistics 18を用い,各項目に対して有意水準5%未満にて反復測定による一元配置分散分析を用いた後,Tukey法による多重比較を行った.<BR>【説明と同意】<BR> ヘルシンキ宣言に基づき対象者には十分な説明を行い,同意を得た上で計測を行った.<BR>【結果】<BR> ヒール高3,5,7cmの順にて結果を記す.COP変化量(1.2mm,2.0mm,2.3mm)では3,7cm間にて有意に前方移動が認められた(p<0.05).胸椎後彎角,腰椎前彎角,骨盤前方傾斜角ではいずれも有意差は認められなかった.アライメント指標では有意差は認められなかったが,全指標とも裸足時より前方へ移動する傾向がみられた.%IEMGでは,全ての筋において有意差は認められなかったが,胸部脊柱起立筋(143.8%,129.7%,130.2%),腰部脊柱起立筋(116.2%,113.6%,115.4%),腰部多裂筋(184.2%,140.9%,172.9%)では,裸足と比較すると増加傾向がみられた.<BR>【考察】<BR> ヒール高が増加し足関節が底屈することにより,前足部への荷重圧が増加すると報告されており,COP変化量では先行研究を支持する結果となった.この変化に伴い,アライメントの全指標が裸足と比較し,前方へ移動する傾向がみられている.また,筋電図においても腰背部筋の%IEMGでは,裸足と比較しハイヒール靴にて増加傾向がみられているため,前方移動に対する姿勢制御に関与していると考えられる.しかし,胸腰椎角,骨盤前方傾斜角において有意な変化は認められず,脊柱での姿勢制御では個人差が大きく,個人で制御様式が異なることが推察された. <BR> 今回,ヒール高による筋活動,アライメントの差は認められなかったが,ハイヒール装用時の腰背部筋の過活動が,腰痛を発症させる一つの要因となるのではないかと考えられた.今後,裸足時のアライメントやハイヒール靴装用時の腰痛の有無を考慮し,群分けをするなど再考した上で,さらに被験者数を増やし検討していく必要がある.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今後,ハイヒール靴が体幹に及ぼす影響について検討を継続していくことで,ハイヒール靴装用者に対する指導や腰痛予防のための一助になると考える.<BR>