著者
柿崎 藤泰 根本 伸洋 角本 貴彦 山﨑 敦 仲保 徹 福井 勉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0312, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】体幹の運動機能を評価する過程で、骨盤との運動連鎖に注目した評価は重要であり、臨床でも良く行われる評価であると考える。しかし、体幹機能の評価で、肋骨の分節的な評価や、他の分節との運動連鎖を観察する一般的な評価はあまりにも少ない。呼吸器疾患をはじめ、他の運動器疾患でもより効果的な理学療法治療を展開するうえで、体幹の運動機能を障害するファクターとしてなりうる胸郭運動の病態把握は重要であると考えている。今回我々は、体幹の複合動作である回旋運動に着目し、胸郭の歪みを形成する肋骨の動きを検討したので報告する。【方法】対象は特に整形外科的疾患をもたない健常成人10名(男性9名、女性1名)で、平均年齢は25.2±3.9歳であった。 計測はzebris社製の CMS20S Measuring system を用いた。マーカーポインターにより測定した部位は、両側肩峰部、両側上前腸骨棘、胸骨柄、剣状突起下端部、第1、3、7、12胸椎棘突起部の各部分であった。各部位の測定では、部分の凹凸に対し、最も陥没している部位、または最も突出している頂点部分にポイントするよう注意を払った。被験者には両手を頭の後に組んだ状態で、40cmの椅子に座ってもらった。静止座位と体幹回旋位で2回の測定が行われた。体幹回旋角度の規定は特に設定せず、骨盤中間位にて、上半身のみの回旋運動で、無理なく運動が遂行できるところまでとし、被験者の任意の角度で測定した。肋骨の動きは、胸骨の長軸を通る直線と第1から第3胸椎、第3から第7胸椎、第7から第12胸椎の各々を結ぶ直線とを前額面上で投影させ、その2直線の交差する角度で判定した。【結果】胸骨長軸直線と各々の胸椎直線との間に、共通した関係はみられなかった。しかし、胸骨長軸直線と第3-7胸椎直線とを投影する角度が、安静座位で2度未満(平行状態に近い)のものが5例、安静座位の時点ですでに4度以上の角度で交差しているものが5例いた。4度以上の5例では、安静時に比べ、回旋位での2直線の角度が全例で減少した。また、対照的に2度未満の5例では、安静時に比べ回旋位での2直線の角度が全例で増加した。そして、2度未満の5例の任意の平均回旋角は4度以上の5例に比較し、より大きな値を示した。【考察】今回の検討にて、胸骨長軸直線と胸椎の各文節との間には明確な関係はみられなかったが、胸骨長軸直線と第3-7胸椎直線との正中化が得られている場合、胸郭形態を無理なく歪ませることのできる機能を有しており、そのことは体幹の回旋運動に有利な条件となることが示唆された。理由として、肋間筋の体幹の回旋作用を指摘する報告もあり、予め胸郭形状に変化が生じている場合、肋間筋の長さにも影響を及ぼし、回旋動作障害に起因する可能性もあること、また第3-7胸椎の中間的役割としての機能が低下することなどが考えられる。
著者
中俣 修 山﨑 敦 古川 順光 金子 誠喜
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O2034, 2010

【目的】体幹部は身体重量の約50%を占める大きな身体領域である。そのため、体幹筋には、体幹の姿勢の平衡状態を維持するために外力に応じて筋出力を調整する機能が求められる。立位では、体幹部の重心線が腰椎のすぐ近位を通過するため、姿勢保持に作用する体幹筋活動が小さい。しかし、変化は少ないながら腹横筋、内腹斜筋には、背臥位から立位への姿勢変換に伴い筋活動の増加を認め、この活動は内臓器の支持、仙腸関節の安定性に関与するとされる。立位における体幹筋活動、鉛直方向の運動負荷に対する体幹筋活動の特徴を明らかにすることは、重力に抗する姿勢保持メカニズムを考える上で重要であると考えられるが、鉛直方向の運動負荷と体幹筋の活動との関係を分析した報告は少ない。そこで、本研究では、跳躍動作により体幹部への鉛直方向の運動負荷を加えた際の腹筋群の筋活動に注目し、鉛直方向の運動負荷に対する腹筋群の活動の特徴を分析することを目的とした。<BR>【方法】対象は健常な大学生男性8名(平均年齢21.6歳、平均身長172.7cm、平均体重61.9kg)であった。体幹筋群の筋電位の計測にテレメーターシステムWEB-5000(日本光電社製)、腰部および膝関節の運動の計測に電気角度計(Biometrics社製)、動作中の加速度の計測には3軸加速度計(MicroStone社製)を用いた。体幹右側の腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、脊柱起立筋(胸部)、多裂筋(腰部)を被験筋とした。座位にて腹筋群および背筋群の最大等尺性筋収縮(MVC)時の筋電図信号の計測を行った後、腰部および膝関節部に電気角度計、胸骨前面に3軸加速度計を取り付けた。課題動作は跳躍動作とした。被験者には両手を胸の前方で組ませ、体幹部を直立に維持した状態で縄跳びを跳ぶ程度の跳躍動作を15~20回程度反復させた。計測した筋電位・関節角度・加速度の信号をA-D変換器 (AD instruments社製)を介してコンピュータに取り込んだ。体幹の加速度変化および膝関節運動の特徴から跳躍動作の周期(跳躍周期)を決定し、連続した3回の動作を任意に抽出した。跳躍周期における各筋の積分筋電図値を算出した後に跳躍周期の時間で除し、単位時間あたりの積分筋電図値(跳躍動作積分筋電図値)を算出した。さらに跳躍動作積分筋電図値を、MVC実施時の単位時間あたりの積分筋電図値を用いて正規化し、跳躍動作積分筋電図値(%MVC)を算出した。3周期の平均値を分析に用いた。跳躍動作における腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋の跳躍動作積分筋電図値の相違の分析には、Kruskal-Wallis検定を用い、有意差を認めた場合にはBonferroniの不等式による修正を利用し多重比較を行なった。<BR>【説明と同意】研究への参加にあたり、被験者には書面および口頭にて十分な説明を行った後、実験参加の同意を得て実施した。<BR>【結果】跳躍動作積分筋電図値(%MVC)の平均値(標準偏差)は、腹直筋:3.5(1.9)%、外腹斜筋:9.4(5.4)%、内腹斜筋:28.9(9.5)%であった。筋間の筋活動量には有意差を認め(P=.025)、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋の組み合わせ全てに有意差を認めた(P<.01)。<BR>【考察】跳躍動作周期における筋活動量の分析結果から、腹直筋の筋活動が小さく、内腹斜筋の筋活動が大きい特徴を認めた。この特徴は、ドロップジャンプについて分析を行なった河端らの研究結果とも類似したものであった。今回、計測を行った内腹斜筋部位は、骨盤内を横行するため直接的な脊柱運動への関与はなく、主として骨盤部の安定性、内臓器の支持に関与するとされる。跳躍動作では立位と比較し体幹部にはより大きな圧迫負荷が加わること、内臓器に作用する慣性力が作用する。そのため内腹斜筋部に大きな筋活動を生じたと考えられる。今回の結果より、鉛直方向の運動においては、腹筋群の役割は異なり、腹直筋よりも側腹筋、特に内腹斜筋の役割が大きく関与すると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究では跳躍動作時の体幹筋活動を分析することにより、鉛直方向への運動刺激に対する腹筋群の活動の特徴を検討した。立位姿勢を保持するメカニズムの検討、立位姿勢の指導や荷重位での体幹筋トレーニングを検討する視点として意義が大きいと考えられる。<BR>
著者
百瀬 伸平 小山田 美咲 柏倉 由佳 高橋 千央 田口 彩乃 大川 孝浩 山﨑 敦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0964, 2015 (Released:2015-04-30)

【目的】健常者の反張膝の有無による歩行時の関節角度,関節モーメントに有意差がないことの報告(河原ら,2010)はみられるが,ヒール歩行と反張膝との関連についての報告はみられない。今回,反張膝の有無が裸足歩行およびヒール靴を着用した歩行について運動学的分析を行ったので報告する。【方法】対象は,1年以内に整形外科疾患のない足のサイズ24.5cmの健常女性22名とした。実験に先行してプラスチック角度計にて立位で膝関節伸展角度を計測し,5°以上のものを反張膝群,5°未満のものを非反張膝群とした。関節角度・関節モーメントの計測には,光学式三次元動作分析装置(VICON Nexus,VICON社)および床反力計(Force Platform OR6-7,AMTI社)を用いた。サンプリング周波数100Hzで計測したデータをもとに,股関節屈曲-伸展,膝関節屈曲-伸展および外反-内反,足関節背屈-底屈の関節角度および関節モーメントを算出した。なお関節モーメントは,対象者の体重で除して正規化を行った。裸足歩行およびヒール歩行は自由歩行速度で行った。ヒール靴はヒール高7cmのものを使用した。ヒール靴に慣れさせるため,トレッドミル上で3分間の歩行練習を行った。この際の歩行速度は,事前に算出した10m歩行速度とした。反射マーカの変位から左足趾離地から右踵離地(立脚中期)を決定し,この期間の関節角度・関節モーメント(最大値)を分析対象とした。また,表面筋電図の計測には多チャネルテレメータシステム(WEB-7000,日本光電社)を使用した。内側広筋,外側広筋,半腱様筋,大腿二頭筋,前脛骨筋を対象に,サンプリング周波数1,000Hzで計測し,単位時間当たりの積分筋電図を求めた。これらのデータは,各筋の最大等尺性収縮時の積分筋電図をもとに正規化し,積分筋電図(%IEMG)を算出した。統計学的分析には,SPSS Statistics21を使用した。反張膝群,非反張膝群ともに,裸足歩行およびヒール歩行の比較を対応のあるt検定にて行った(有意水準5%)。【結果】関節角度は,非反張膝群,反張膝群ともにヒール歩行で,股関節屈曲,膝関節屈曲・内反,足関節底屈角度がやや増加していた。股関節伸展モーメントは,非反張膝群,反張膝群に関わらず,裸足に比してヒール歩行で有意に高値を示していた(p<0.01)。膝関節では,非反張膝群の伸展モーメントが裸足歩行に比してヒール歩行で高値を示していた(p<0.01)。また外反モーメントについては,両群ともにヒール歩行で有意に高値を示していた(p<0.001)。一方の足関節底屈モーメントは,非反張膝群,反張膝群ともにヒール歩行で低値を示したが,有意差は認められなかった。%IEMGは,非反張膝群において内側・外側広筋にてヒール歩行で有意に高値を示していた(p<0.001)。また反張膝群では,半腱様筋においてヒール歩行で有意に低値を示していた(p<0.01)。【考察】ヒールを着用した立位姿勢では上半身後方移動,骨盤後方移動を行うことで,姿勢の不安定性を制御している(友國ら,2008)。つまり,ヒールを着用することで足関節が底屈位に固定されて下腿が前傾するため,膝関節屈曲,股関節屈曲位とする代償がみられたことになる。今回の結果では,股関節伸展および膝関節伸展モーメントが,裸足歩行に比してヒール歩行時に高値を示しており,動的状況下においても同様の制御が伺えるものと考えられる。膝関節の屈曲角度は,両群ともにヒール歩行でやや増加していたが,膝関節モーメントは非反張膝群のみで有意に高値を示していた。一方の筋活動をみると,反張膝群では半腱様筋においてヒール歩行で有意に低値を示していた。つまり,反張膝群のヒール歩行では,膝関節の屈曲モーメントをあまり必要としないことが示唆される。また,外反モーメントが両群ともにヒール歩行で有意に高値であったことは,足部の運動の関与が伺える。裸足歩行では荷重量の増大に伴い,足部は内反から外反へと運動の変換がなされるが,支持面の狭いヒール歩行ではこの運動が十分になされない。つまり,膝関節内反角度の増大に伴い,外反モーメントの発揮が求められたことが示唆される。【理学療法学研究としての意義】現代社会においてはヒール靴の使用頻度は非常に高いものの,女性に多い反張膝と関係性を示した研究はみられなかったことから,理学療法士として社会的貢献の一助となりえる。
著者
小林 祐太 中井 雄一朗 木勢 峰之 矢口 悦子 米田 香 古河 浩 寺岡 彩那 山﨑 敦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0658, 2012

【はじめに、目的】 股関節疾患患者において、バランス能力低下により立位や歩行での動揺の増大がよくみられる。不安定板上立位での姿勢制御の反復練習にて、より高い姿勢制御能力が獲得される可能性があるとした報告はあるものの、立位や歩行にどのように影響するかの報告は少ない。そこで本研究では、股関節疾患患者に対し不安定な支持面での立位バランス練習にて、実施前後での即時的な重心動揺や歩行の変化について検討する。【方法】 対象者は当院整形外科受診の前期股関節症1名と、変性疾患・外傷により手術治療 (人工股関節全置換術2名、ハンソンピン1名、γ-nail1名)を施行した4名を対象とした。性別は、男性3名、女性2名、年齢67.5±9.1歳とした。立位バランス練習には、株式会社LPNのハーフストレッチポール(以下HSP)を使用した。HSPは平面側を床側にして、規定した幅(身長×0.40÷2)で横向きに並ぶように前後に1つずつ設置した。その上に片脚ずつ均等な荷重で乗せて歩隔は肩幅として立位をとり、5秒保持した後に、15秒休息をとった。次に脚を前後逆にして同様に行い、これを1セットとして、計5セット行った。この運動前後に、小型三次元加速度計(ユニメック社)を第3腰椎の高さに固定し、自由歩行の加速度を計測した。また、フットスイッチを踵部に装着して踵接地を同定した。サンプリング周波数は200Hzとし、アナログ解析ソフトWAS(ユニメック社)にて9Hzのローパスフィルターで処理し、二乗平方根値を歩行速度の二乗値で除した値(以下RMS)を加え前後・側方・垂直成分にて解析した。さらに、定常歩行から得られた患側踵接地からの1歩行周期の加速度波形に対して自己相関係数(以下ACC)の前後・側方・垂直成分を算出した。また、患側上後腸骨棘、大転子、大腿骨外側上顆の3点にマーカーをつけ、加速度測定時の歩行をデジタルカメラで撮影し、ICpro-2DdA(ヒューテック株式会社)にて歩行時の3点間の角度を算出した。この結果を静止立位時と比較して、患側立脚後期の股関節最大伸展角度を算出した。さらに、重心動揺計(ユニメック社)を使用し、運動前後の重心動揺を計測した。開眼・自然立位にて20秒間の測定を行った。指標として、前後・側方方向単位軌跡長を用いた。各々の値は2回の測定結果の平均値を用い、その結果を基に中央値と四分位範囲で表し運動前後を比較した。統計処理にはPASW Statistics 18を用いてWilcoxon signed-rank testを行い、5%未満を統計学的有意とした。【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、対象者には本研究の目的、内容、個人情報取り扱いについて口頭および書面にて説明し、同意書への署名により同意を得た。また、本研究は当院倫理委員会の承諾を得て行った。【結果】 各項目は運動前→運動後の順に中央値(四分位範囲)で示す。RMSは前後成分0.15(0.08)→0.16(0.17)、側方成分0.14(0.07)→0.14(0.07)、垂直成分0.22(0.12)→0.12(0.12)であったが、有意差は見られなかった。ACCは前後成分0.85(0.15)→0.88(0.07)、側方成分0.67(0.28)→0.76(0.11)、垂直成分0.66(0.17)→0.89(0.11)と3方向において増加が見られ、側方成分には有意な増加が見られた。 重心動揺は前後方向単位軌跡長(mm/s)が9.55 (3.30)→6.70 (4.35)、側方方向単位軌跡長(mm/s)が4.45 (1.85)→4.60 (1.25)と前後は減少が見られ、側方は増加が見られたが有意差は見られなかった。股関節伸展角度(°)は-0.72(2.75)→-5.24(5.76) と有意な減少が見られた。【考察】 不安定な支持面での立位姿勢保持には、効果的に足関節トルクを用いることができず、股関節による制御が行われるといった報告がみられる。今回HSP上で不安定な立位状況を設定することで、股関節による制御が促通されることを仮説として本研究を実施した。今回の結果から、股関節での制御が促通され、歩行時の側方の規則性において有意に改善させた可能性が示唆される。側方の姿勢制御は、足関節に対して股関節が優位とされていることから上記の結果に繋がったと推察される。一方、歩行時の前後方向への動揺性の増加は、立脚後期の股関節伸展角度減少による推進力低下を体幹などで代償した結果、前後方向の動揺性の増加に起因したのではないかと考えられる。今後は、運動時中の筋電図測定なども行い、姿勢制御戦略に影響を与えている因子を検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 本研究の運動が、即時効果として立位や歩行時に影響を与えることが確認できた。不安定な支持面で姿勢制御戦略を促通させることは、股関節疾患患者の歩行効率の改善に有効であることが示唆される。
著者
西村 圭二 北村 淳 山﨑 敦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0925, 2012

【はじめに】 我々は先行研究において,不良姿勢者に対し頭頂から尾側方向へ軸圧を加え,圧に抗する軸圧抵抗エクササイズ(以下EX)を行うことで姿勢アライメントの正中化が得られ,軸圧なしに上方へ伸び上がるだけのエクササイズでは頭頸部のアライメント修正が不十分であることを報告した。そこで今回は,頭部前方位姿勢に対しセルフエクササイズとして頭頸部と体幹のリンクを考慮したリラクセーション(以下RX)とEXを施行したところ,姿勢変化を認めたので報告する。【方法】 健常成人8名(平均31.0±5.4歳)を対象に,RXとEX前後の両脚,片脚立位の姿勢撮影を行った。撮影肢位は,耳垂,肩峰,オトガイ結節,第5中足骨底にマーカーを付けた矢状面における立位とした。まずRXを実施した。肢位は,ロール状にしたバスタオルを2本使用し,1本は第1胸椎棘突起から尾骨部まで縦方向に沿わせ,もう1本は横方向にし外後頭隆起を乗せた背臥位とした。この肢位で顎を引き,さらに頸部後面をやや伸張するように外後頭隆起下のバスタオルを頭側方向へ少し引き上げた。この状態で3分間の脱力を促した。RX後にEXを実施した。EX肢位は股膝を90°屈曲した端座位とした。EXは頭頂と会陰部を通り上半身を左右2等分する位置に幅9mmのゴムの輪を装着し,頭頂から尾側方向へ圧を加え張力に対し頭側へ伸び上がる運動とした。この時,後頭部に接するゴムの圧に抗するように顎を引くことも意識させた。圧を認識しやすいように直径50mm,幅70mmのパッドをゴムと頭頂の間に設置した。ゴムの長さは座高の1/2程度とした。EXはセルフにて15回実施し15回目のみ伸び上がった状態のままで5回深呼吸をするように促した。セット間に1分間休憩し,2セット実施した。撮影画像より,通常,RX後,EX後の両脚,片脚立位を比較し,第5中足骨底を通る垂直線を基準に各マーカーの距離をパソコン上で求めた。さらに頭部前方位の変化を算出するために,頸椎屈曲角度と頭蓋角度(耳垂とオトガイ結節を結ぶ線と垂直線とのなす角)を各々計測し,値の減少をもってアライメントは正中に近付いたと判断した。統計処理は反復測定分散分析を行い,多重比較検定にはDunnett法を用い危険率5%未満とした。【説明と同意】 厚生労働省が定める「医療,介護関係事業における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」に基づき,対象者に本研究の趣旨を書面にて十分に説明し同意を得た。【結果】 両脚立位は,通常と比較しRX後,EX後のすべてのマーカーで垂直線との距離が減少した。耳垂は通常2.9±2.0cm,RX後1.7±1.0cm,EX後1.7±1.1cm,オトガイ結節は通常10.5±3.4cm,RX後8.7±2.9cm,EX後9.4±2.4cmと有意な値を示した(p<0.05)。頸椎屈曲角は通常18.1±4.1°,RX後15.0±5.2°,EX後14.9±5.3°と有意に減少した(p<0.05)。頭蓋角は減少したが有意差はなかった。片脚立位でも耳垂は通常3.4±1.9cm,RX後2.1±2.1cm,EX後2.0±1.9cm,オトガイ結節は通常11.9±1.8cm,RX後9.9±3.0cm,EX後10.4±1.8cmと有意な減少を示した(p<0.05)。頸椎屈曲角は通常19.5±2.6°,RX後16.1±3.6°,EX後16.2±4.8°(p<0.05)と有意に減少したが,頭蓋角に有意差はなかった。【考察】 RXとEX施行により,頭部前方位が減少し立位アライメントが正中に近付く傾向を示した。頭部前方位は上位頸椎伸展と下位頸椎屈曲,胸椎後彎の増強により生じる。そのため,頭頸部と体幹をリンクさせたアプローチが必要である。バスタオルを用いて頭頸部は頭部前方位と逆方向へ,脊柱は彎曲を減少させる方向へ各々誘導し持続的に脱力させることで,各関節および筋の柔軟性が得られその肢位への適応が可能になったと考える。EXでは,ゴムを用いることで張力による鉛直下方向への圧刺激が加わるので,頭側へ伸び上がるための正しい運動方向と後頭部に接するゴムの圧を意識することで頭部前方位と逆方向の後上方への運動方向の認識が容易となる。頭側へ伸び上がることで腹横筋の活動を生じることが報告されており,運動方向から頸部前面筋の活動も示唆される。したがって,理想とされる重心線から逸脱した各分節が垂直線に近付くように作用するため,垂直線との距離および角度の減少が得られ,頭部前方位および立位アライメント改善に繋がったと考える。【理学療法学研究としての意義】 不良姿勢での作業や加齢変化などで,脊柱後彎や頭部前方位を呈することを臨床上見受ける。姿勢へのアプローチは症状緩和だけでなく予防としても重要である。良姿勢を獲得するためには,自己の感覚で正しい姿勢や運動を容易に理解できる必要がある。本研究は身近なバスタオルとゴムを用いるため正しい方法の指導により対象者が容易に運動を再現できるものである。よって,本研究の有効性を示すことで,再現性が高く効果的なEXを多くの対象者に提供できると考える。
著者
矢口 悦子 木勢 峰之 米田 香 山﨑 敦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1081, 2011

【目的】<BR> ファッションとしてハイヒール靴を履く女性が多くみられる.しかし,足の痛みや腰痛を訴える者も多く,ハイヒールが身体に与える影響について様々な報告がされている.その中で体幹に関しては,腰椎の過剰な前彎が生じる,脊柱のアライメントに変化はないなど一定の見解が得られていない.また,ヒールの高さの違いによる体幹への影響を検討した研究は少ない.そこで本研究では,異なるヒール高にて体幹筋活動とアライメントの変化を検討したため報告する.<BR>【方法】<BR> 本研究では,健常成人女性8名(年齢22.5±1.9歳,身長160.4±3.2cm,体重52.9±2.5kg)を対象とした.計測課題は, 3,5,7cmのハイヒール靴を装用した静止立位の3条件とした.靴は同一形状の物を使用し,24.5cmのサイズとした.また,比較として裸足での計測も合わせて行った.安静立位で,2m前方の目線の高さの印を注視させ,各条件で3回ずつ計測を行った.<BR> 計測ではフォースプレート(zebris社製 FDM1.5)にて足圧中心(以下,COP)を求め,踵骨後縁からの距離を算出した.アライメントの計測には,超音波動作解析装置(zebris社製CMS-20S)を用いた.受信機を被験者の背側に設置し,指標として左側の耳垂,肩峰,第7頚椎~第3仙椎棘突起,上前腸骨棘,上後腸骨棘,大転子,膝関節前面,外果を触診し,ポインターにてマーキングを行った.ソフトウェアにはZebris WinSpineを使用し,各指標の空間座標を計測した.ここで得られた座標から,胸椎後彎角,腰椎前彎角,骨盤前方傾斜角を求め,脊柱を除く各指標に対し,外果を基準とした矢状面上での移動距離を算出した.COP,アライメントではそれぞれ3回の平均値を求めた後,裸足と各条件の変化量を算出した.また,筋活動の計測には表面筋電図計TELEMYO2400R(NORAXON社製)を用い,電極を左側の外腹斜筋,内腹斜筋,胸・腰部脊柱起立筋,腰部多裂筋に貼付した.3秒間の安定姿勢における筋活動を1,500Hzでサンプリングした後に平滑整流化し,裸足時の筋活動で正規化し%IEMGを算出した.統計処理にはPASW Statistics 18を用い,各項目に対して有意水準5%未満にて反復測定による一元配置分散分析を用いた後,Tukey法による多重比較を行った.<BR>【説明と同意】<BR> ヘルシンキ宣言に基づき対象者には十分な説明を行い,同意を得た上で計測を行った.<BR>【結果】<BR> ヒール高3,5,7cmの順にて結果を記す.COP変化量(1.2mm,2.0mm,2.3mm)では3,7cm間にて有意に前方移動が認められた(p<0.05).胸椎後彎角,腰椎前彎角,骨盤前方傾斜角ではいずれも有意差は認められなかった.アライメント指標では有意差は認められなかったが,全指標とも裸足時より前方へ移動する傾向がみられた.%IEMGでは,全ての筋において有意差は認められなかったが,胸部脊柱起立筋(143.8%,129.7%,130.2%),腰部脊柱起立筋(116.2%,113.6%,115.4%),腰部多裂筋(184.2%,140.9%,172.9%)では,裸足と比較すると増加傾向がみられた.<BR>【考察】<BR> ヒール高が増加し足関節が底屈することにより,前足部への荷重圧が増加すると報告されており,COP変化量では先行研究を支持する結果となった.この変化に伴い,アライメントの全指標が裸足と比較し,前方へ移動する傾向がみられている.また,筋電図においても腰背部筋の%IEMGでは,裸足と比較しハイヒール靴にて増加傾向がみられているため,前方移動に対する姿勢制御に関与していると考えられる.しかし,胸腰椎角,骨盤前方傾斜角において有意な変化は認められず,脊柱での姿勢制御では個人差が大きく,個人で制御様式が異なることが推察された. <BR> 今回,ヒール高による筋活動,アライメントの差は認められなかったが,ハイヒール装用時の腰背部筋の過活動が,腰痛を発症させる一つの要因となるのではないかと考えられた.今後,裸足時のアライメントやハイヒール靴装用時の腰痛の有無を考慮し,群分けをするなど再考した上で,さらに被験者数を増やし検討していく必要がある.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今後,ハイヒール靴が体幹に及ぼす影響について検討を継続していくことで,ハイヒール靴装用者に対する指導や腰痛予防のための一助になると考える.<BR>
著者
中俣 修 山﨑 敦 金子 誠喜
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2117, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】身体の鉛直方向への運動を反復する跳躍動作については、主に下肢関節運動に着目され研究がなされている。動作中にほぼ直立位に保持されている体幹部では観察される関節運動は少ないものの、身体長軸方向に繰り返し加わる負荷に対して体幹姿勢を保持するための姿勢制御が必要となる。このような体幹長軸方向に加わる運動負荷に対する体幹運動の特徴を明らかにすることは、重力に抗した姿勢保持や運動時の体幹機能を考える上で重要であると考える。そこで本研究では跳躍動作における体幹運動を、1)身体全体の運動との関連性、2)跳躍高による影響という観点から分析することを目的とした。【方法】対象は健常な大学生男性6名(平均年齢21.2歳、平均身長171.6cm、平均体重57.1kg)であった。計測には、3次元動作解析装置(VICON MX)および床反力計を用いた。身体標点としてVicon社の Plug in gait full bodyモデルにより定められた所定の35点に反射マーカーを貼付した。課題は4種類の動作ピッチ(100・120・140・160回/分)での跳躍動作とした。被験者には肘関節伸展位・前腕回外位・手指伸展位、肩関節軽度外転位とさせた状態で15~20回程度跳躍動作を反復させた。被験者には跳躍高を調整してメトロノームのピッチ音に合わせて動作を行うように指示した。Plug in gait full bodyモデルにより算出した胸郭角度、骨盤角度、脊柱角度(胸郭と骨盤の相対角)の矢状面成分を体幹運動の指標として、身体重心の鉛直方向空間座標(以下、重心鉛直位置)、床反力計の鉛直方向成分の左右合計値(以下、床反力鉛直成分)を身体全体の運動の指標として用いた。床反力鉛直成分の変化をもとに接地時点から再び接地するまでを跳躍周期、接地している期間を接地相、離地している期間を離地相と定義した。跳躍周期における胸郭角度、骨盤角度、脊柱角度、重心鉛直位置と床反力鉛直成分の関係について分析した。また動作周期中の胸郭角度・骨盤角度・脊柱角度の変化角度(以下、胸郭運動角、骨盤運動角、脊柱運動角)、重心鉛直位置の鉛直方向の移動距離(以下、重心移動距離)について連続する3周期分の平均値を算出し統計学的分析に用いた。動作ピッチによる胸郭運動角、骨盤運動角、脊柱運動角、重心移動距離の相違の分析には、Friedman検定を用いた。【説明と同意】研究への参加にあたり、被験者には書面および口頭にて説明を行った後、書面にて実験参加の同意を得て実施した。【結果】重心鉛直位置は接地相にて最下点、離地相にて最高点を生じる周期的な変化を示した。床反力鉛直成分は身体重心の最下点付近でピークとなった。接地相において重心鉛直位置が最下点、床反力鉛直成分が最大となる際に胸郭角度・脊柱角度が最大屈曲、骨盤角度が最大後傾となり、その後伸展・前傾運動に転じた。離地相の初期に胸郭角度・脊柱角度が最大伸展、骨盤角度が最大前傾となった。これらの特徴は動作ピッチによらず類似していた。動作ピッチ(100・120・140・160回/分)による重心移動距離の平均値(cm)は26.8・19.7・14.6・10.8であり、重心移動量に相違を認めた(p<0.05)。動作ピッチ(100・120・140・160回/分)による運動角の平均値(°)は、胸郭運動角:7.7・5.7・3.7・3.4、骨盤運動角:5.5・5.4・4.8・5.0、脊柱運動角:12.5・10.0・8.1・7.9、で動作ピッチの小さい方が運動角が大きい傾向にあったものの統計学的には有意差を認めなかった。【考察】本研究では跳躍動作における体幹運動について、身体全体の運動との関係、跳躍高との関係に着目した。その結果、身体重心および床反力鉛直成分の変化と関連して運動を生じることが確認できた。特に接地相においては重心が最下点に達した後、上行する運動へと切り替わる際に大きな鉛直方向の負荷を受けることとなる。この際に体幹では一定の姿勢が保持されるのではなく、床反力の変化と協調的に若干の運動を生じていた。これは脊柱に加わる衝撃吸収や下肢にて発揮させる力を効率的に体幹に伝えることに作用する反応と考える。【理学療法学研究としての意義】跳躍動作では身体全体の運動と関連して体幹運動が協調的に生じていた。この結果は、抗重力位での身体運動における体幹の運動学的特徴を明らかにする一助になると考える。