著者
桑形 恒男 住岡 昌俊 益子 直文 近藤 純正
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.625-638, 1990 (Released:2007-10-19)
参考文献数
24
被引用文献数
23 25

ルーチン観測データから複雑地形上における大気一地表面問の熱収支を見積る新しい解析方法を開発した。この解析手法を用いて、春期の弱風晴天日の中部日本域(東北•関東•中部地方)の気象官署55地点における日中の大気境界層(下層大気)の熱収支を評価した。弱風晴天条件においては、中部日本全域で熱的な局地風が発達し、下層大気の熱収支はそれら局地風系によって支配される。地形的な特徴に応じて各気象官署を岬、浩岸平野(海岸から20km以内)、内陸平野、内陸盆地(盆底)、山岳の5つのカテゴリーに分類し、地形別に下層大気の昇温がどのように異なるかを調べた。その結果、内陸盆地と内陸平野で下層大気の昇温量が大きく、岬と沿岸平野および山岳で昇温量が小さいという結果が得られた。内陸盆地や内陸平野で昇温量が大きくなるのは、局地的な沈降流による断熱昇温が原因である。この沈降流は、側斜面で発生した斜面上昇風(谷風)による大気流出の補償流として生じたものである。逆に、山岳では顕熱によって暖められた空気が谷風によって流出し、昇温量が小さくなる。一方、岬や浩岸平野などでは海風によって海上の寒冷気塊が侵入し、昇温量が抑えられる。この効果は海岸に近い地点ほど顕著である。このように日中の下層大気の昇温量は、局地循環による局所的な移流によって大きく左右される。そして、この昇温量に比例して地上気圧の低下がひきおこされ、昇温量が大きな内陸部を中心として日中に熱的な低気圧が形成されることになる。