著者
岩崎 裕治 堀江 久子 藤野 孝子 益山 龍雄 加我 牧子
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.317, 2016

はじめに東京都の委託事業として、平成25年度より3年間、東京都重症心身障害児(者)在宅医療ケア体制整備モデル事業を実施したので、その内容と効果につき報告する。目的この事業の目的は、重症心身障害児(者)(以下、重症児(者))が地域で安心して暮らせるために身近なかかりつけ医を増やす、また地域のネットワーク構築を図るというものである。方法江東区、江戸川区、墨田区、中央区の4区で、連絡会、研修会の開催、事例集発行、かかりつけ名簿作成等実施した。また医療機関ならびに重症児(者)の保護者を対象にアンケート調査を実施した。結果3年目では診療所の1176施設中507施設から回答があった。重症児(者)の診療は、83施設で行っており、定期的な診察、体調不良の初期治療、予防接種などであった。連携・支援の条件では、通院している病院との情報共有、症状悪化時の病床確保などであった。初年度と3年目を比較すると、回収率(17.7→43.1%)、診療している施設数(21→83)ともに増加がみられた。かかりつけ医名簿への登録も24→114施設へと増加した。病院では55施設中22施設より回答があり(回収率40.0%)、重症児(者)の緊急時受け入れ可能7施設、レスパイト入院受け入れ可能5施設であった。保護者へのアンケートは2年目に実施し、141名中75名がすでに地域の診療所で診療を受けていた。内容は定期診察、予防接種などで、また歯科、耳鼻科、眼科なども多かった。考察この事業の実施により、地域での重症児(者)の診療の拡大に効果があった。しかし各医師会での取り組みや、他の小児在宅医療連携拠点事業なども同時に実施されており、これらの影響も大きいと思われた。地域での有効な在宅医療の展開には、他の取り組みとの連携が必要であった。また医師以外の職種(訪問看護、相談支援専門員など)との連携も重要と考えられた。
著者
山際 英男 甲斐 結城 松木 友美 矢崎 有希 小町 祐子 軍司 敦子 山本 晃子 加我 牧子 益山 龍雄 荒井 康裕 本澤 志方 太田 秀臣 立岡 祐司 野口 ひとみ 高木 真理子 真野 ちひろ
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.262, 2017 (Released:2019-06-01)

はじめに 重症心身障害児(者)(以下、重症児者)は視覚刺激に対する応答がきわめて乏しい者があり、環境情報取得の制限から周囲の人や物との相互作用が乏しくなりがちである。何をどのように知覚しているのかの視覚認知機能評価は、療育上きわめて重要であり、自覚応答に頼らない視覚機能検査により、視覚情報提供の際の注意点を明らかにするため検討を行った。 対象 重症児者施設長期入所利用者50名(平均年齢37歳、男性26名、女性24名)、大島分類1:39名、2:4名、3:2名、4:3名、5:1名、9:1名。 方法 小町ら(日本重症心身障害学会誌、2013)の方法に準じて検討し、評価した。定性的視覚機能評価は対光反射、光覚反応、回避反応、視覚性反射性瞬目、睫毛反射、視運動性眼振(OKN)、注視、追視、瞥見視野)を調べ、反応状態により、反応あり、条件付き反応、反応無しの3段階の順序尺度で評価し、追視、瞥見視野は角度も測定した。注視・追視可能な者は縞視力測定を行った。機能の有無は評価に参加したセラピスト2/3以上の同意をもって判定した。 結果 各項目の反応出現率は睫毛反射94%、対光反射94%、光覚反応84%、視覚性反射性瞬目68%、注視66%、追視54%、瞥見視野52%、OKN58%、縞視力34%、回避反応40%であった。追視、瞥見視野の結果は個人差が大きく、かつ方向・範囲の制約がみられた。 考察 以上より対象者のうち、94%は情報取得手段として視覚を何らかの形で利用できる可能性があり、追視と瞥見視野の結果は刺激提示場所としてどの位置に提示すれば視覚応答が得られやすいかが示され、個別に考慮、対応すべきことが確認された。重症児者の多くは適切な視野を確保するための自動的な頭部コントロールが困難なことが多いため、「見える位置・距離」に対象を提示することが、残存視力を活かし豊かな相互作用につながると考えられる。