著者
益田 圭
出版者
The Japanese Group Dynamics Association
雑誌
実験社会心理学研究 (ISSN:03877973)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.68-78, 1996-06-30 (Released:2010-08-24)
参考文献数
12

本稿は, 被差別部落に関する問題をめぐって, 人々がどのような常識的知識を用い, 実践的推論をおこなっているかについて検討するものである。そのために, ある被差別部落の周辺の教職員と主婦を対象に面接調査を実施した。この調査から, この地域で語られる同和政策に対する不満の表出という現象を記述し, この地域の人々の実践的推論と常識的知識について考察をおこなった。その結果, この地域の被差別部落周辺住民の同和政策に対する不満の表出に関して, 次の三点が明らかになった。第一に, この地域で被差別部落周辺住民からの不満の対象となるのは, 非常に日常生活に密着し住民自身の利害関係に深く関わっている事柄であること。第二に, 同和行政に対して強い不満を示すのは, 被差別部落近隣地域の経済的に苦しい立場にある人々であり, こうした不満の表明の背後には, 被差別部落や部落問題から回避しようとする, より一般的な価値観が存在すること。第三に, 同和政策に対する不満に用いられている実践的推論に, 一般的で抽象的な「公平」という価値観が動員されており, さらに, 「人の助けを借りない」という価値観が, 被差別部落の環境改善などの同和政策に対する実践的推論に動員されることで, 被差別部落を差別・排除する作用を持つことである。