著者
盛永 宏太郎
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.416-421, 2001-06-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
11

大豆種子の組織を破壊した後,加水膨潤と加熱を行い組織破壊の程度がTIの熱失活に与える影響を調べて次の所見を得た.(1) 膨潤丸大豆と磨砕大豆に0.05Mリン酸緩衝液(pH 7.6)を加えて沸騰水浴中で20分間加熱したところ,いずれも膨潤丸大豆に残存するTI活性の方が磨砕大豆のTIよりも小さい値になった.そしてその値は120℃ 30分間加圧加熱したときの磨砕大豆の残存TI活性値に匹敵するものであることを認めた.(2) 丸大豆と破砕大豆微粉にリン酸緩衝液を加えて吸水膨潤後に沸騰水浴中で加熱したところ,加熱約5分までは微粉のTIの方が急激に熱失活した.そして両者共に,加熱5分後のTI活性は大豆1mg当たり,生大豆の約1/10相当する数単位になった.しかしそれ以後は微粉のTIは下げ止まりの傾向を示すのに対して,丸大豆はさらに減少し加熱20分後には破砕大豆のTIの約1/2にまで減少した.(3) リン酸緩衝液を加えて吸水膨潤した丸大豆と破砕大豆微粉を20分間加熱したところ,80℃以下の温度では,TI活性減少率は微粉の方が大きかったが,80℃以上では,丸大豆の方が大きくなった.(4) 破砕大豆にリン酸緩衝液を加えて吸水膨潤後に沸騰水浴中で20分間加熱したところ,微細に粉砕した大豆のTIほど熱失活しなくなった.しかし粒径1mm程度で限界に達し,それ以上に粉砕してもさらなる差異は生じなかった.(5) 圧扁大豆にリン酸緩衝液を加えて吸水膨潤後に沸騰水浴中で20分間加熱したところ,圧扁の程度が増すほどTIは熱失活しなくなった.(6) 剥皮した大豆を150℃ 20分焙煎すると剥皮処理を行うことでTIが熱失活しなくなる傾向が見られた.しかし湿式加熱ではこの傾向は認められなかった.また大豆をナイフで切断した大豆にリン酸緩衝液を加えて吸水膨潤後に沸騰水浴中で20分間加熱したところ,分割の程度が少ない大豆では,TIの熱失活しなくなる傾向は認められなかったが,8分割以上に細かく分割した大豆では,有意にTIが熱失活しなくなることが認められた.以上(1)-(6)までの結果,大豆種子は湿式加熱においても,焙煎加熱で見られたように,組織破壊の程度に応じてTIは加熱しても熱失活しなくなることが明らかになった.従来,大豆加工や調理においては食味向上を兼ねて大豆組織が充分に軟らかくなるまで煮熟するのが一般である.しかし以上の結果から,単に大豆のタンパク質の消化向上を目的とする場合は,過度の煮熟は必要なく,また加熱前に大豆を挽き割ったりすり潰したりする処理も不要であるように思われた.
著者
盛永 宏太郎
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.219-225, 1997-03-15 (Released:2009-05-26)
参考文献数
21
被引用文献数
2 2

丸大豆および大豆粉を焙煎してタンパク質の消化を調べ,次の知見を得た.(1) 乾燥丸大豆を150℃で10分間以上焙煎すれば,トリプシンのみでダイズタンパク質の約80%を消化することができた.これは水に懸濁した大豆粉を加熱した場合のタンパク質の消化率に匹敵する高い値であることが確認できた.(2) 丸大豆を180℃で10分間以上焙煎すると,タンパク質の消化率は次第に減少した.これは,基質タンパク質分子中の塩基性アミノ酸が,褐変反応などによって化学変化を受け,このためにトリプシンが作用しにくくなっているためと思われた.(3) ダイズを粉砕してから焙煎した場合には,150℃で加熱してもTIが失活せず,丸大豆の場合ほどタンパク質の消化がよくならなかった.(4) ダイズを焙煎してから粉砕するか,粉砕してから焙煎するかによってTIが容易に失活したり,失活しなかったりするということは,TIは本来,不活性体として生大豆組織中に存在していて,細胞破壊を受けた際に活性化すること,また,一旦,活性化したTIは熱安定性を増し150℃程度の焙煎処理では容易に失活しないのではないかと考えられた.
著者
盛永 宏太郎
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.245-249, 2002-04-15 (Released:2010-01-20)
参考文献数
11

(1) 乾燥丸大豆を破砕後に焙煎して,TI活性の変化を調べたところ,無傷の大豆のTI活性は熱失活して1/20程度に低下したが,破砕して微細になった大豆ほどTIは熱安定性を増して熱失活しなくなった.粒径1mm以下に破砕した大豆のTI活性値は未加熱大豆のTI活性に近い高い値を示した.また,乾燥大豆を圧扁してから焙煎してそのTI活性の変化を調べたところ,破砕の場合と同様に,薄く圧扁した大豆のTIほど熱失活せずTI活性は高い値になった.これは破砕または圧扁処理により,大豆細胞が破壊されたためにTIが熱安定性を増したものと思われた.(2) 生大豆および焙煎丸大豆,焙煎破砕大豆のタンパク質をトリプシンで消化したところ,三者共にトリプシン量が残存するTI単位量以下の少量であっても,そのトリプシン添加量に応じて消化率は徐々に向上し,TI単位量に達したときに消化率は約50%になった.その後もトリプシンの添加量に比例して消化率が向上した.添加トリプシン量がTI単位量の約2倍になったときに消化率はほぼ最大値に近くなった.また,焙煎丸大豆のタンパク質はTI活性が低いので少量のトリプシン量で良く消化するのに対して,生大豆と焙煎破砕大豆はTI活性が高いために消化が悪く,多量のトリプシンを加えないと消化率は良くならなかった.(3) 焙煎大豆のTI失活に及ぼす焙煎温度と時間の影響を調べたところ,120℃加熱では温度が低く,無傷の丸大豆でもTI失活は不充分であった.破砕大豆TIはまったく失活しなかった.150℃加熱の丸大豆は加熱10分後にTI活性値は1/10に減少し,20分後には1/20になった.150℃加熱の破砕大豆のTIは20分後でもわずかに10%減少しただけだった.180℃加熱の丸大豆は加熱5分でTI活性値が1/10に減少した.しかしこのときの大豆は黒変して焦げた状態になった.破砕大豆のTIは180℃加熱でもなお幾分活性を持続し20分後の値は生の約1/5を示した.