著者
正村 和彦 目黒 玲子
出版者
弘前大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

ウイスターラットに拘束水浸(23℃)ストレスを2.5時間与えた後、われわれが開発した三価の非ヘム鉄および二価の非ヘム鉄を組織化学的に証明する高感度灌流パールス法と灌流タンブル法(Meguro et al.,2003)で可視化し、胃粘膜の非ヘム鉄の動態と胃粘膜傷害との関連を光学および電子顕微鏡で調べた。水浸ストレスによって胃の小弯側に生じた粘膜褶曲の凸部に胃粘膜傷害が生じた。胃粘膜傷害では胃の壁細胞が他の粘膜細胞よりも早期に傷害されることが観察された。壁細胞は細胞および核の膨化と核クロマチンの凝集による核質の淡明化を示した。正常の壁細胞はおもにミトコンドリアに非ヘム鉄を蓄積しているが、胃粘膜傷害部位では、壁細胞における非ヘム2価および3価鉄の増加が見られた。これに関連して、傷害された壁細胞にヘムオキシゲナーゼ 1およびフェリチンの発現が増加した。これらの所見から、ストレスによる胃粘膜の局所的虚血によりミトコンドリアの膜傷害、ミトコンドリアの非ヘム鉄およびヘム鉄の細胞質への遊離、ヘムはヘムオキシゲナーゼ 1によって酸化/分解されて非ヘム鉄が遊離、これに対応して非ヘム鉄を隔離するためにフェリチンの発現が起きたと考えられた。また、再灌流によって生じたスーパーオキサイドと遊離の鉄イオンが反応してヒドロキシラジカルを生成し、これが壁細胞および周囲の他の細胞の膜脂質、蛋白質、DNAなどを酸化して傷害を起こし、広範な胃粘膜傷害を結果すると考えられた。水浸ストレスによる胃粘膜傷害は胃粘膜の褶曲部に生じることから、胃の筋層の局所的収縮が粘膜血管を圧迫して虚血を生じることが考えられた。