著者
石井 千菊 直江 祐樹 日沖 甚生
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, 2008-04-20

【目的】人工股関節全置換術(以下THA)後の患者においては、術後自覚的脚長差を平成18年11月から平成19年10月まで当院にてTHAを施行し、術後理学療法を施行した10例(女9例、男1例、平均年齢60.4歳)。診断は変形性股関節症9例、股関節高位脱臼1例。手術は全例後側方侵入にて行われた。1例は、大腿骨骨折により術後4週免荷。<BR>【方法】平成18年11月から平成19年10月まで当院にてTHAを施行し、術後理学療法を施行した10例(女9例、男1例、平均年齢60.4歳)。診断は変形性股関節症9例、股関節高位脱臼1例。手術は全例後側方侵入にて行われた。1例は、大腿骨骨折により術後4週免荷。術前、歩行開始時、歩行開始後1週、歩行開始後2週に自覚的脚長差を5mmきざみの板を踏んでもらうことにより測定し、記録は2.5mm単位で施行した。また術前および術後に両股関節正面レントゲンにて涙痕間線を基準として他覚的脚長差を測定した。術側下肢が長い場合を正の値とした。<BR>【結果】術後全例が自覚的脚長の変化を認めた。自覚的脚長差は、術前で平均-8.5mm、歩行開始時で平均14.0mm、歩行開始後1週で平均11.25mm、歩行開始後2週で平均10.5mmであった。他覚的脚長差は、術前で平均-18.1mm、術後で平均11mmであった。歩行開始時から歩行開始後1週の自覚的脚長差の変化は平均3.7mm、歩行開始後1週から歩行開始後2週の変化は自覚的脚長差の変化は平均0.9mmであり、歩行開始時から歩行開始後1週の変化は有意に大きかった(p=0.0013)。歩行開始後全例で脚長差は減少し、歩行開始後2週において10例中8例で自覚的脚長差が10mm以下になり、補高を必要としなかった。10例中2例に歩行開始後2週にて自覚的脚長差と術後他覚的脚長差に30mm以上の差が見られた。その他の8例においては、歩行開始後2週にて自覚的脚長差と術後他覚的脚長差の差は平均0.15mmであった。<BR>【考察】自覚的脚長差の測定は、補高を決定する上で重要である。THA後の理学療法において自覚的脚長差がみられた場合の補高を処方する時期は決められていない。自覚的脚長差の歩行開始時から歩行開始後1週の変化が有意に大きかったことから、補高を処方する場合は、歩行開始早期に行う必要がないのではないかと思われる。また歩行開始1周以降も自覚的脚長差の改善がみられた例がいたこと、歩行開始後2週において10例中8例で自覚的脚長差が10mm以下になり補高を必要としなかったことから補高を処方する場合も段階的に高さを調整出来るようにした方が良いと考えられる。<BR><BR>
著者
南端 翔多 直江 祐樹 山口 和輝 谷 有紀子 岡嶋 正幸 野首 清矢 坂本 妙子 松原 孝夫(MD) 須藤 啓広(MD)
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.28, 2012

<b>【目的】 </b>高位脱臼股では脚短縮がみられ、人工股関節全置換術(THA)施行時、原臼蓋にカップが設置され、その結果脚長が延長される。脚延長により、中殿筋等の股関節周囲筋が伸張され、術後筋力の回復、可動域の改善が遅れ、歩行機能の低下を呈するため、理学療法に難渋する症例を経験することがある。今回、高位脱臼股に対して4㎝の脚延長を行なった右THAの1症例に対して、術前、術後の外転筋力、歩行機能を調査したため、若干の考察と共に報告する。<br><b>【症例】 </b>症例は高位脱臼股に対して後方アプローチによる右THAを施行した60歳代の女性である。術後は当院THAクリニカルパスに沿って理学療法を施行した。右THA施行により約4㎝脚長が延長された。右THA後は松葉杖歩行獲得し、22日目に転院となった。5カ月後にT字杖歩行獲得、独歩可能となった。症例には発表の主旨を説明し同意を得た。<br><b>【方法】 </b>右THAの術前、術後1, 4, 7, 14日目、退院時(21日目)、術後5カ月の股関節外転筋力、歩行様式を調査した。股関節外転筋力は、microFET2(HOGGAN社製)を使用し等尺性筋力を測定した。測定は3回行い、その平均値を測定値とし、回復率(術後測定値/術前測定値×100)を算出した。また筋力測定時の疼痛をvisual analogue scale(VAS)を用いて測定した。<br><b>【結果】 </b>右THA後の外転筋力回復率は、1日目12%、4日目36%、7日目36%、14日目99%、21日目117%、5カ月198%であった。VASは術前5㎜、術後1日目36㎜、4日目48㎜、7日目22㎜、14日目15㎜、退院時(21日目)8㎜、術後5カ月0㎜であった。歩行様式は、術前屋内は独歩、屋外長距離はT字杖使用、術後1, 4, 7, 14日目は歩行器、退院時(21日目)は松葉杖、術後5カ月はT字杖、独歩も100m程度可能であった。<br><b>【考察】 </b>当院MIS-THA後の股関節外転筋力回復率は7日目で114.3%、退院時(22.6日)には156.8%と第38回日本股関節学会にて報告した。本症例では当院の先行研究と比較すると筋力の回復が遅れる結果となった。三戸らは21㎜以上脚延長した群は、低い回復率を示したと報告しており本症例も、同様にTHA後の平均より低い回復率となった。術後股関節周囲筋が、伸張されたことにより疼痛が出現し、術後早期は筋力の発揮が不十分となったこと、また術前高位脱臼により股関節外転筋群が短縮位となり、筋萎縮を呈していたことが考えられる。その結果、股関節外転筋力が術前値より改善しても歩行時に骨盤を安定させることができず、松葉杖使用が必要な状態となった。術後5カ月には股関節外転筋力は、回復率が198%となり歩行時骨盤が安定し、独歩が可能となったが、股関節外転筋力が回復し骨盤が安定するには時間を要する結果となった。<br><b>【まとめ】 </b>高位脱臼股に対して脚延長を行ったTHAでは、股関節外転筋力、歩行機能の回復が遅れる傾向がみられた。外転筋力、歩行機能改善には、長期的な理学療法の介入が必要であるということが示唆された。