著者
直海 俊一郎
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.136-142, 2023-06-25 (Released:2023-06-28)
参考文献数
11

『生物体系学』(直海 2002)で展開した体系学の構造論とは,「私が独自に創出した理論」ではなく,分類学と系統学が別学問に変わっていった時代(1970~1980年代)における,体系学の5分科の「実際上の構造」についての理論と,若干の齟齬はあるものの,基本的には再解釈できると考えている.体系学の構造論を論じた第1章第5節では,体系学を5分科(分類学,系統学,狭義体系学,分布学,生物地理学)から構成される学問ととらえ,それらの分科がどのような学問であるかを論じ定義し,そしてそれらの学問の目的と仕事を明らかにした.しかし,専門用語の適切な解説なしで論を進めていったので,実際的にわかりにくいと思われる.そこで,この小文では,体系学の構造論について若干の解説を行った.第1に,分類学と狭義体系学をよりわかりやすく解説した.分類学と狭義体系学の違いとは,それぞれが構築する分類体系の質の高さの違いであり,単に,「第1の分類学」と「第2の分類学」というふうに区別する方がよいように思われる.第2に,自然理解のために有用な体系学的情報の系統学と狭義体系学での分割管理,およびその実例について解説した.第3に,体系学における哲学的行為としての実体変換(「クラス変換」と「個物変換」)について解説した.分類学(および狭義体系学)と系統学では,取り上げられ議論の対象となる哲学的実体は異なっている.実体変換とは,論理的に一貫性のある実りの多い議論を行うために,その実体が取り上げられる分科に相応しい用語を選択することによって,実体をその分科に相応しい哲学的実体に変換するという哲学的行為である.
著者
直海 俊一郎
出版者
日本植物分類学会
雑誌
分類 (ISSN:13466852)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.25-40, 2006-02-20 (Released:2017-03-25)
参考文献数
35

村上・芹沢の「種の数だけ種のあり方がある」という研究プログラムは,独創的でかつ自然理解に役に立つ優れものである,と高く評価する.この研究プログラムは種の概念論的構造の明示化に役に立つ.また,種の実際の状況の研究・探索に啓発をもたらすばかりでなく,生物多様性の研究にとって意義深いものである.本稿では, Templeton (1989)の「凝集的種概念」を簡単に紹介し,その問題点([1]概念的構造における誤謬,および[2]生物学的実体と分類学的種の混同)を指摘した.村上・芹沢の研究プログラムの概念的枠組みを積極的に頑健なものにするために,彼らの理論内部にある2つの論理的誤謬([1]「種のあり方」と「種の認識]の混同,および, [2]種のあり方は,彼らの主張とは逆に,彼らの理論の文脈のなかにおいて特定されている点)をそのつぎに指摘した.最後に,「種の数だけ種のあり方(実際?)がある」という学問的枠組みの方向性にも簡単に触れた.