著者
相田 純久
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.204-216, 2008 (Released:2008-04-16)
参考文献数
55

硬膜外鎮痛法は周術期や慢性・急性疼痛の管理に有意義である. 使用される薬剤はモルヒネが主流であるが, さまざまな薬剤が試用され, その評価もさまざまである. 硬膜外投与された薬剤は拡散して脊髄に作用するため, 血液脳関門は関与しない. 脊髄には多数のμおよびκ受容体が発現しているが, モルヒネなどのμ作動薬に比較してκ作動薬は副作用が少なく, 安全性が高い. それ故, 硬膜外κ作動薬は有意義な鎮痛法であり, 全身の鎮痛 (頭部・顔面に対しては頸部硬膜外鎮痛で可能) に応用できる. 一方, NMDA拮抗薬は, 痛覚過敏や中枢性感作などの疼痛の促通・増幅を抑制し (鎮痛とは異なる) , オピオイドとの相乗作用や耐性・依存性抑制作用がある (オピオイドの補助薬としての適応) . しかし, 一次求心性インパルスをブロックしないためNMDA拮抗薬に脊髄性鎮痛作用は期待できない. 全身投与によるNMDA拮抗薬は上位中枢神経系の統合機序に影響すると考えられ, 中枢痛・視床痛などには効果が期待できる. しかし, 硬膜外NMDA拮抗薬の効果は脊髄に限られるので, 全身投与に優る効果は期待できない. ケタミンについて考えると, この薬剤は作用特異性が低く, 多彩な効果が期待できる. これにより, 大量投与で全身麻酔作用が, 少量投与で鎮痛作用が現われると考えられる.