著者
鈴木 利保
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.92-107, 2006 (Released:2006-01-24)
参考文献数
30

日常臨床で麻酔科医が頻繁に使用する種々の針について, その歴史, 構造, 使いやすさについて解説し, 理想的な針について考察した. 多くの針はメーカーが設計・製造を行い, 使用者である医師の主観的評価のみがあり, その特性が客観的に評価されていない. これらの針を用いた手技は, 生体にとって侵襲的であり, ときに多様な合併症を引き起こし, 死に至る例の報告もある. われわれ医師は, 用いる針の特性を十分に理解し, 合併症を起こしにくい器材を世に出す必要がある. その際には, 使いやすさをわれわれ自身が客観的に評価する必要がある. こうすることにより, 患者と医療従事者の安全が守られると考える.
著者
宜野座 到 渕上 竜也 照屋 孝二 垣花 学 須加原 一博
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.465-470, 2010 (Released:2010-09-15)
参考文献数
13

患者は32歳の女性.アフリカから帰国後,発熱・嘔吐・下痢を発症した.輸入感染症を疑い,血液塗沫検査で赤血球内に2つのクロマチン顆粒をもつ輪状体が複数存在し,熱帯熱マラリアと診断した.赤血球感染率7%で重症マラリアとも診断した.集中治療室で,全身管理およびキニーネ静注による治療を行った.播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)も合併し,血小板輸血とアンチトロンビン製剤投与を行った.その後,マラリア感染およびDICは改善した.抗マラリア薬の適正な使用と,DICに対する早期治療が奏効したと考えられた.
著者
飯田 宏樹
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.709-718, 2013 (Released:2013-11-09)
参考文献数
34

麻酔科医は喫煙患者では周術期管理に苦慮することを経験してきた.喫煙は呼吸・循環機能を含め全身に影響を与えることは広く知られているが,周術期禁煙の意義は十分には理解されていない.周術期においては,喫煙者は非喫煙者に比べ,死亡,肺炎,予期せぬ気管挿管,人工呼吸,心停止,心筋梗塞,脳卒中等の死亡率・術後合併症のリスクが高くなることが示されている.最近では術前の禁煙期間が1週間長くなると,術後合併症が19%減少することが報告されているので,できるだけ早く術前禁煙を達成させることが大切である.ここでは周術期禁煙の意義を示すとともに,手術直前まで喫煙している患者に対する麻酔管理をいかに行うべきかも含めて提示する.
著者
門田 幸二
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.5, pp.537-543, 2016-09-15 (Released:2016-11-05)
参考文献数
22

次世代シークエンサ(NGS)は,医療やライフサイエンス分野の諸課題を効率的に解決するための実験機器の一つである.麻酔がもたらす作用メカニズムの解明にも,おそらく利用されているか利用されつつある.例えば,麻酔に伴う重篤な合併症に関連した遺伝子,低酸素や低体温応答関連遺伝子の同定などが考えられる.ほかにも麻酔薬がどの神経細胞中の,どの遺伝子(転写物またはRNA)の発現レベルに,どの程度の投与量で作用するかについても適用可能であろう.本稿では,典型的なビッグデータである大量の塩基配列データ(NGSデータ)を効率的に扱うための取り組みを紹介する.
著者
志賀 俊哉
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.72-78, 2016-01-15 (Released:2016-02-12)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

メタアナリシスは,臨床上の疑問に答える有力な手段としてすでに確立された研究手法であるが,従来の手法では2種類の治療法を直接比較することしかできず,その多くは介入群vs.対照群であった.3種類以上の治療法の結果を統合する方法は,multiple treatment comparisonあるいはネットワーク・メタアナリシスなどと呼ばれ,ベイズ・モデルを用いることで可能となる.この方法は,過去に直接比較試験を実施していない治療法の比較(間接比較indirect comparison)や,どの治療法が最も優れているか(治療法の順位付けrank of probabilities)を可能にする点において,特に強みがある.
著者
有田 英子 小川 節郎 花岡 一雄
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.35-42, 2009-01-15 (Released:2009-02-07)
参考文献数
14
被引用文献数
2

痛みは主観的な感覚であり, その測定・評価は難しい. 痛みの強さの測定についても, visual analogue scale (VAS) など, これまでにいくつかの評価法が提示されているが, いずれも主観的な測定法であった. この度, 患者がもつ痛みを, 痛みを伴わない異種感覚に置き換えて定量評価する知覚・痛覚定量分析装置が考案された. これにより, より客観的に痛みの強さを測定することができ, 患者間の痛みの強さや, ある患者の長期にわたる痛みの強さの比較・検討が可能になると考える. VASと比較した臨床データの一部を提示する.
著者
植木 隆介 駒澤 伸泰 岡野 紫 多田羅 恒雄 上農 喜朗
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.131-136, 2013 (Released:2013-03-12)
参考文献数
11
被引用文献数
1

手術室での火災対策は病院の危機管理体制上,重要な課題の一つである.手術室は,火災発生に必要な3つの要因,発火源,酸素,可燃物がそろっており,火災発生が起こりやすいことを十分認識する必要がある.全身麻酔下で手術中の患者を迅速に移動させることは難しいため,日頃からスタッフ全員が火災について危機管理意識を持ち防止に努める必要がある.また,万一火災が発生した場合でも初期徴候を見逃さず早期発見し,初期消火することが重要である.また,火災を想定した防災訓練により停電や酸素供給停止,避難の方法,指揮系統を確認することは必要で災害対策の基本となる.
著者
住谷 昌彦 柴田 政彦 眞下 節 山田 芳嗣 厚生労働省CRPS研究班
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.420-429, 2010 (Released:2010-09-15)
参考文献数
16
被引用文献数
3

複合性局所疼痛症候群(CRPS)は激しい痛みに加え,早期から廃用障害を引き起こすことがある.1994年に国際疼痛学会(IASP)からCRPSの判定指標が提唱され広く利用されるに至ったが,その曖昧さから感度は高いが特異度がきわめて低いという問題点が指摘された.米国ではこの問題を解消しようと特異度を効率的に上げる研究がなされ,新たな判定指標が提唱された.そこで厚生労働省CRPS研究班が組織され,米国の研究にならい本邦独自のCRPS判定指標作成を行った.本稿では,a)本邦のCRPS患者の評価と判定指標の作成と,b)CRPS type 1とtype 2という分類の必要性の2点について概説する.
著者
小原 伸樹
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.719-727, 2013 (Released:2013-11-09)
参考文献数
17

肥満は静脈麻酔薬の薬物動態を変化させるため,麻酔科医は薬物動態に関する基本的な考え方を理解して麻酔薬の投与計画を行う必要がある.肥満患者への利用を想定せずに作成されたPKモデルを用いたシミュレーションやTCI投与の結果は不正確になりうる.最近,肥満患者のために従来のものから修正された,または“アロメトリックスケーリング”や“3/4ルール”を応用した新しい薬物動態モデルが発表されており,シミュレーションに用いて麻酔薬投与量を決定する場合の参考になる.
著者
杉本 浩士 松成 泰典 川西 秀明 萱島 道徳 川口 昌彦 古家 仁
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.531-537, 2014 (Released:2014-09-06)
参考文献数
2

日本麻酔科学会による周術期管理チーム養成の提唱等により,病院長の方針のもと,麻酔アシスタントとして麻酔補助業務を担当する臨床工学技士が誕生し,平成26年3月現在,6名が当院の研修プログラムを修了した.その業務内容は,術前準備を含めた麻酔補助・機器管理の大きく2つに分けられ,詳細は多岐にわたる.麻酔科医の業務軽減と医療安全の向上を目的として当制度が発足して現在約4年が経過した.麻酔補助においては業務の拡大と教育体制の充実が今後の課題であり,機器管理においてはますます業務が増える傾向にある.われわれ麻酔アシスタントと当院麻酔科医が共同で業務を行うことにより,医療安全の向上につながる可能性があると考える.
著者
水原 敬洋 後藤 隆久
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.736-741, 2013 (Released:2013-11-09)
参考文献数
30

キセノンに麻酔作用があることが1946年に報告されて以来さまざまな研究が行われ,その特性が麻酔薬として理想的であることが判明している.キセノンはすでに欧州では麻酔薬として臨床認可されており,本邦でも臨床認可される可能性はあると考えられる.キセノンは導入・覚醒が早い,鎮痛作用を持つ,術中の循環動態が安定する,脳保護作用を持つ,術後認知機能障害を予防できる可能性がある,といった多数の利点を持っている.しかし一方で,キセノン自体のコストは高く,臨床普及を阻む欠点となっている.本稿ではキセノン麻酔の利点と欠点を概説し,今後の展望についてまとめる.
著者
田勢 長一郎
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.264-271, 2005 (Released:2005-05-27)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

麻酔科医にとり挿管困難症例は避けては通れない重大な問題である. 挿管困難症に対しては種々の方法が考案されているが, このなかで気管支ファイバースコープ (BF) をガイドにして気管挿管を行う方法は, 使用法に慣れれば合併症が少なく, 短時間ででき, 最も成功率が高い. 経口あるいは経鼻挿管が可能なすべての挿管困難症例に適応があると思われる. BFによる気管挿管は安全かつ確実な方法であるため, 麻酔を専門とするすべての医師にとり必須の技術であり, 熟練していなければならない.
著者
甲斐 哲也
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.369-379, 2017-05-15 (Released:2017-06-17)
参考文献数
10

麻酔科医にとって手術室の管理は仕事の一部であり,麻酔科医は手術室の環境整備に関する知識を備えておく必要がある.CDCの手術部位感染防止ガイドライン1999は,当時のエビデンスに基づいた勧告であり,十数年経った今もわれわれ手術に関わる者の拠り所である.本ガイドラインを基にしながら,手術室の空調と清掃・滅菌など手術室環境の整備に関して,現在の日本のガイドラインを交えて概説する.
著者
住谷 昌彦 宮内 哲 山田 芳嗣
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.7, pp.917-924, 2008-11-14 (Released:2008-12-13)
参考文献数
34

四肢切断後に現われる幻肢痛をはじめとする神経障害性疼痛の発症には, 大脳を中心とした中枢神経系の可塑性が関与していることが最近の脳機能画像研究から確立しつつある. 本稿では, 幻肢痛を含む病的疼痛全般は脊髄上位中枢神経系に由来するというわれわれの持論から, まず幻肢の随意運動の中枢神経系における制御機構について概説し, そこから幻肢が中枢神経系にとって健常肢として存在すれば幻肢痛が寛解するという仮説を提案する. 続いて, われわれが行っている鏡を用いて幻肢の随意運動を獲得させることによる臨床治療 (鏡療法) からわれわれが提案した仮説を検証し, 鏡療法の有効性と限界, 今後の展開の可能性について概説する.
著者
荻野 祐一
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.775-780, 2013 (Released:2013-11-09)
参考文献数
15

FiRST(Fibromyalgia Rapid Screening Tool)は,線維筋痛症(FM)を効率よく検出するために開発され,6項目の「はい・いいえ」で答える簡単な問診から成る.原著者から許可を得たのちFiRST日本語版を作成し,原著と同様に5項目以上陽性(「はい」と答える)をCut-off値とすると,FiRSTの全項目において,FMと他の慢性痛疾患群との群間比較で有意差を認め,感度は100%,特異度は71.6%であった.FiRSTは,線維筋痛症の実体をよく表していると考えられscreening toolとして有用であるが,diagnosis toolとしては力不足である.
著者
細井 卓司 山田 高成 森崎 浩 浦上 研一 楠原 正俊 玉井 直
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.407-417, 2017-07-15 (Released:2017-08-26)
参考文献数
54

術後悪心・嘔吐は,麻酔関連合併症の中で最も頻度が高く,また重篤な病態を惹起する危険性がある.その原因はさまざまな要因が指摘され,また嘔吐に関わる伝達経路も複数存在している.世界的にはこれらのさまざまな伝達経路に対処可能な制吐薬あるいは嘔吐予防薬が開発されているものの,わが国においては保険適用が限定され,高額な制吐薬を術後悪心・嘔吐には処方できない状況にある.今後は術後悪心・嘔吐を併発しやすい患者群をより精度の高い評価法や非侵襲的指標により把握し,効率的に予防することが望まれる.
著者
松本 美志也
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.28, no.5, pp.723-731, 2008-09-12 (Released:2008-10-17)
参考文献数
16
被引用文献数
2 2

局所麻酔薬は, 電位依存性ナトリウム (Na) チャネルに作用し, 活動電位の伝播を遮断することで局所麻酔作用を発揮する. 最近の研究で, 電位依存性ナトリウムチャネルの3次元の形態が明らかにされつつある. この電位依存性ナトリウムチャネルには現在少なくとも9種類のサブタイプが知られている. 電位依存性ナトリウムチャネルの研究の進展は, 局所麻酔薬の作用機序や難治性疼痛疾患の病態の解明に新たな知見を与えると思われる.
著者
成松 宏人
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.146-151, 2015 (Released:2015-02-17)
参考文献数
6

世界に発信できる臨床研究数は日本においては欧米先進諸国に比べ少なく,残念ながら,日本は臨床研究後進国であることがしばしば指摘されている.臨床研究の目的の一つは基礎研究の成果を臨床的実用化に結びつけることである.よって,臨床研究の停滞は,日本での研究成果であるにもかかわらず,実用化の恩恵を日本国民が受けるのが遅れるという結果にもつながることが危惧されている.よって,臨床研究の活性化は医学のみならず社会的にも重要な課題となっている.臨床研究をその中心として担うのは現場の医療者である.しかし,医学教育にて臨床研究を遂行するための能力を身につけるためのトレーニングの機会は圧倒的に不足しているのが現状である.そこで,本稿では臨床研究を進めるために必要なエッセンスである(1)研究デザインの知識,(2)臨床試験で必要な研究倫理の知識,(3)臨床研究に必要な統計について紹介・解説した.臨床研究を行うための基礎的素養を備えた臨床医が増えることで,今後の現場の臨床医による臨床研究の活性化を期待している.
著者
市原 靖子 Carlos A. Ibarra Moreno 菊地 博達
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.215-224, 2006 (Released:2006-03-29)
参考文献数
51
被引用文献数
1 1

悪性高熱症は誘発薬などによって骨格筋の異常な代謝亢進が引き起こされる致死的な疾患である. 常染色体優性遺伝をとり, 多くはリアノジン受容体 (RYR1) の遺伝子変異のために起こるといわれている. 一方, セントラルコア病は先天性非進行性ミオパチーの一種である. 臨床症状として重症例は少ないが, 側弯症や四肢の関節拘縮などを有することが多い. セントラルコア病患者の悪性高熱症合併例は以前より報告されていた. またセントラルコア病の遺伝子変異がRYR1領域であることから, セントラルコア病と悪性高熱症は非常に関連深い疾患である. しかし悪性高熱症だからといってセントラルコア病を必ず伴っているわけでもなく, 逆にセントラルコア病だからといって, 確率は低いと思われるが必ずしも悪性高熱症であるわけでもない.