- 著者
-
真下 英明
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2016, 2017
<p><b>はじめに</b></p><p></p><p>古来よりかけ声や発声により,いつもよりより強い筋力の発揮が可能となることは知られ,日々の生活の中にも潜在的に取り込まれている。近年ではこの作用をスポーツ分野に持ち込み,より高いパフォーマンスを発揮させることや,運動方法の指導などに用いられている。リハビリテーションも疾病等により一時的に運動機能が低下した患者へ,運動や動作の再獲得を目指し,筋力や関節運動の改善,動作の獲得などを指導点でスポーツと類似する点が多く,実際の臨床場面でもオノマトペが利用されているところを多く耳にする。しかし,これまでオノマトペは暗黙知として作用があることは知られていても,実際どのような作用があるのかについての研究は海外を含めても数少なく,リハビリテーションにおいては散見されない。今回はオノマトペの言語的作用について検討を行った。</p><p></p><p></p><p></p><p><b>方法</b></p><p></p><p>1)膝屈曲運動</p><p></p><p>被験者は平均年齢28.6±7.9歳の健常な男性10名(身長:171.3±6.1cm,体重:64.1±8.0kg,BMI:21.8±1.7kg/m<sup>2</sup>)であった。筋力測定機器は,アイソフォースGT-360(OG技研株式会社製)を用いた。運動課題は,膝屈曲と肘伸展における等尺性運動とした。膝屈曲運動時のオノマトペは,「ピン」と曲げる動きを連想させる「グイ」とした。</p><p></p><p>2)肘伸展運動</p><p></p><p>被験者は平均年齢27.4±4.7歳の健常な男性10名(身長:171.6±5.6cm,体重:65.6±8.5kg,BMI:22.2±1.9kg/m<sup>2</sup>)であった。筋力測定機器は,ミュータスF1(アニマ株式会社製)を用いた。運動課題は,「ピン」と「ギュ」を用いた。</p><p></p><p>両実験ともに,2つのオノマトペの他にオノマトペ無しで運動を行ってもらう3パターンをランダムに指示し,各3回計測となるようにした。データはトルク体重比kgF/kg)として算出し比較をおこなった。分析は,StudentのT検定を用い検討し,有意水準を5%未満と設定した。</p><p></p><p>運動指示の音声出力は,被験者から1.5m離れた場所から検者3名に口頭にて"膝または肘"を"伸ばすまたは曲げる"の指示を各3回行ってもらい,その音量をiphone6の音量計アプリ(Decibel 10th)を用いて計測しその平均値を求め,事前にパソコンに準備したオノマトペ有り無しの音声をスピーカー(SONY製SRS-X11:最大出力10W)から平均値と同じ距離と音量(Decibel 10<sup>th</sup>で計測)で出力した。検者3名の口頭指示音量は平均80Wであった</p><p></p><p></p><p></p><p><b>結果</b></p><p></p><p>筋力計測の結果からは,膝屈曲時には「ピン」のオノマトペが最小(p=.014)となり,肘伸展では最大(p=.0004)となった。オノマトペ無しは,どちらの実験においても中間の出力であった。</p><p></p><p></p><p></p><p><b>結論</b></p><p></p><p>今回の実験から,オノマトペが音としてのみ運動に作用しているのでは無く,運動の方法にも影響を持つ可能性が示唆された。オノマトペは音声とは違う言語的な意味合いによって,より運動の方向を限定的にし,かつ機能を向上させる効果があると考える。</p>