著者
鴫原孝博 真壁寿
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-04-29

【はじめに,目的】筋緊張亢進はADLやリハビリテーションに大きな影響を与えており,理学療法では痙縮筋の筋緊張低下を目的として,様々な徒手療法や物理療法が利用されている。しかし,手技の効果を比較検討した報告は見当たらない。本研究の目的は,脊髄運動細胞の興奮性の指標として,経皮的電気刺激法によるIa相反抑制と持続的伸張によるIb抑制が筋緊張に及ぼす影響を検討し,臨床におけるIa相反抑制とIb抑制の有効性を比較検討することである。【方法】対象は神経障害の既往がない健常成人10名(平均22.0±1.4歳)とし,測定脚は左下肢とした。ヒラメ筋を被験筋とし,M波の最大振幅及び最大M波の10%の振幅が得られる刺激強度でのH波振幅を測定し,H波は介入前の振幅の平均値に対する百分率で表した。介入は前脛骨筋に経皮的電気刺激を行う条件(以下,Ia条件)と下腿三頭筋に持続的伸張を行う条件(以下,Ib条件)の2条件とした。Ia条件では,前脛骨筋の運動点に対し経皮的電気刺激を行った。刺激波形は持続時間1msecの矩形波,刺激強度は強度を上げても収縮力が強くならない最小強度とし,立位で20分間行った。Ib条件では,足関節背屈20°の傾斜台上立位にて,下腿三頭筋に対し20分間持続的伸張を与えた。各条件の測定は1日以上の間隔をあけ,介入前後に誘発筋電図装置(日本光電,Neuropack MEB-2200)を用いてH波及びM波を導出した。導出肢位はベッド上腹臥位で膝関節軽度屈曲位,足関節中間位となるようポジショニングを行い,各条件前後に姿勢変化がないように配慮した。刺激電極は膝窩部に設置し,脛骨神経に対し経皮的電気刺激を行った。刺激頻度0.5Hz,刺激持続時間1msecの短波形とした。導出電極には表面電極を用い,関電極は脛骨結節と足関節内果の中間で,脛骨のすぐ内側のヒラメ筋上に貼付し,アースを刺激電極と関電極の中間点に貼付した。介入前と介入後0,5,10分毎に約15発ずつ測定し,規定したM波の振幅に近い波形を10発ずつ採用した。測定中は被験者に安静を保たせた。Ia及びIb条件前後の各時間の振幅変化率とその減少比率を求め比較検討した。また,各条件間の振幅変化率の差を各時間にて比較検討した。Ia及びIb条件前後の振幅変化率の差の検定には一元配置分散分析,その減少比率の検定にはχ2検定,各条件間での各時間の振幅変化率の差の検定には対応のあるt検定を用いた。なお,各統計学解析の有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り対象者のプライバシー侵害および人体に与える影響などに留意し,研究の意義と実験方法を口頭と書面で説明し,同意が得られた人を対象とした。【結果】Ia条件では介入直後10例中7例,5分後10例中6例,10分後10例中7例で有意なH波振幅の減少,10分後10例中1例で有意なH波振幅の増大が認められた(p<0.05)。これらの減少比率はすべて有意差が認められた(p<0.01)。また,振幅変化率の全体平均値は各時間に有意差は認められなかった。Ib条件では介入直後10例中8例,5分後10例中7例,10分後10例中5例で有意なH波振幅の減少が認められた(p<0.05)。これらの減少比率はすべて有意差が認められた(p<0.01)。また,振幅変化率の全体平均値は各時間に有意なH波振幅の減少が認められた(p<0.05)。なお,Ia条件とIb条件の各時間での振幅は,介入直後と10分後で,Ib条件で有意に減少率が高いことが認められた(p<0.05)。また,5分後では有意差はないが,Ib条件で減少率が高い傾向にあった。【考察】今回の研究において,経皮的電気刺激法によるIa相反抑制と持続的伸張によるIb抑制が筋緊張の抑制を目的とした理学療法手技として有効であると言える。Ia相反抑制後のH波振幅変化率の全体平均値の結果では,興奮性の反応が影響していたことが考えられる。条件間の比較では,Ib抑制がより筋緊張抑制手技として有効であることが示唆された。しかし,10例中1例で有意にIa相反抑制の効果が高い例が認められ,Ib抑制の効果が高いとは必ずしも言い切れない。今後,筋緊張の亢進を有する患者に対して,その他の手技も含めてその効果を比較検討する必要がある。そして,臨床でより有効な筋緊張抑制手技を選択するには,各手技の最も効果の高い介入条件や,対象者の身体的及び精神的な特性の違いによる各介入条件の効果量の変化についても明らかにすることが重要である。【理学療法学研究としての意義】筋緊張抑制手技を選択するにあたって,より効果的な手技を選択し,患者のADLや円滑なリハビリテーション進行の基盤となる可能性が高い。