著者
矢作 友行
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究
巻号頁・発行日
no.10, pp.117-130, 2004-11-30

近年,不確実性という事態に注目してこそ的確に把握しうるような環境問題が増加している。不確実性が焦点となる環境問題は,因果関係の不確実性に注目すれば,「原因の不確実性が主要な焦点となる問題」「結果の不確実性が主要な焦点となる問題」「原因の不確実性と結果の不確実性の両者が焦点となる問題」という3類型を区別できる。本稿では,原因と結果の不確実性が同時に焦点となっている杉並病問題を事例として取り上げて検討した。まず,準備的作業として,不確実性が焦点となる環境問題にアプローチするために「原因の不確実性/結果の不確実性」「原理的過誤/経験的過誤」「第1種の過誤/第2種の過誤」といった基礎概念枠組みを提起した。次に,杉並病問題の概要を紹介するとともに,原因と結果の不確実性の両面から杉並病問題の特徴を整理した。その上で,経験的過誤の諸類型として「基準主義の過誤」「対策時期の過誤」「問題設定の過誤」「便宜主義の過誤」を析出しつつ,杉並病問題が未解決状態にある要因連関を解明した。最後に,本稿の到達点の理論的含意と実践的意味についてまとめるとともに,今後の研究課題を示した。