著者
矢野 英二 北原 佶 有馬 正高
出版者
一般社団法人 日本小児神経学会
雑誌
脳と発達 (ISSN:00290831)
巻号頁・発行日
vol.10, no.5, pp.359-371, 1978-09-01 (Released:2011-05-24)
参考文献数
17

乳児の頸定遅延の要因について分析するため, 正常乳児250例, 異常児152例の頸定の時期を検討した. また, 正常乳児28例, 脳性麻痺児 (以下C. P. 児) 16例, 精薄児 (M. R. 児) 11例, Werdnig-Hoffmann病 (W.-H. 病) 4例, Congenital Progressive Muscular Dystrophy (CMD) 3例, 水頭症4例については, Traction Responseの表面筋電図学的研究を行なった. またLandau responseと頸定の相関についても検討した.1) 正常乳児250例の頸定の時期は (3.20±0.51月) で, 3ヵ月にピークがあり, 153例 (61%). 4ヵ月までには, 1例を除き全例可能となった.2) C. P. 児 (6.11±3.82月), M. R. 児 (5.30±2.31月), Down症候群 (5.68±1.74月) CMD (5.63±2.95月) の患児では半数以上に頸定の遅延を認めた (mean±SD).3) Traction responseの表面筋電図学的検討は, 頸定の完成した正常児群では, 中間位までに活発な筋放電を認め, 垂直位では, 消失するパターンを得た. 3生月未満の末頸定群でも, 引き起こしと同時に前頸筋に放電が得られたが, 垂直位になっても持続する例がかなりみられた. 頸定が完成している乳児でも, 未完成の乳児でも, 引き起こしで放電が誘発されるので, 2ヵ月未満の成熟乳児の頸定の未完成が立ち直り反射の未発達によるとする記録は得られなかった. C. P. 児群では, 全般的にVoltageが高く, 不規則で, 特に垂直位の状態においても不安定な筋放電の持続を認め, 筋トーヌスの保持機能に障害があるものと推測された. 重度精薄の患児では, 抗重力筋の収縮がほとんど起こらず, 反射機構に何らかの異常があると考えられた. W.-H. 病およびCMDでは, 全体的に筋活動が著明で, 垂直位でも持続的な筋収縮を認め, 頭部立位保持の努力がうかがわれた.4) Landau responseと頸定の相関では, 正常乳児未頸定群, 頸定群ともにNeck extentionは可能であるが, C. P. 児, M. R. 児の未頸定群では, 約半数にしか達していない. 一方, C. P., M. R. 児の頸定群では, 全例可能であった.5) 頭部の垂直保持機構に関しては, 少なくとも, 筋肉, 結合織, 骨, 靱帯などの支持組織の発達が十分であり, また中枢神経系, 特にRighting reflexを中心とした姿勢反応の成熟が必要で, 加えて, 安定した筋トーヌスの保持機能の発達が大きく関与しているものと考えられた.