著者
仲山 實 知念 隆之 山里 将浩
出版者
The Japanese Society for Dialysis Therapy
雑誌
日本透析医学会雑誌 = Journal of Japanese Society for Dialysis Therapy (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.44, no.12, pp.1163-1169, 2011-12-28

60代の男性.維持血液透析患者で,アレルギー疾患の既往はなく,炭酸ランタン(La)の慎重投与とされる肝機能障害,消化管疾患はなかった.炭酸Laを内服後,高度の低アルブミン(Alb)血症が出現したが,炭酸Laの中止後,急速に改善した.<SUP>99m</SUP>Tc-HSA蛋白漏出シンチグラフィーで回腸からの蛋白漏出が確認され,蛋白漏出性腸症(PLE)と診断された.造影CTスキャンで蛋白漏出部位と一致する回腸に,壁肥厚と内腔の狭小化が認められた.また上部,下部消化管の内視鏡検査と生検,検便などから,寄生虫疾患は除外された.低Alb血症から回復した時の造影CTスキャンでは,回腸の肥厚所見は消失していた.また,回復後の炭酸Laの再投与によって,末梢血好酸球増多が確認された.臨床経過からPLEの発症に炭酸Laの関与が考えられたが,炭酸Laの投与で好酸球増多が起こること,CT画像で好酸球性腸炎に特徴的な小腸壁の肥厚が認められたこと,寄生虫など他の疾患が除外されたことなどから,PLEの原因として好酸球性腸炎が疑われた.塩化ランタンのラットへの投与実験で胃粘膜下に高率に好酸球の浸潤と末梢血の好酸球増多が観察され,また回腸の絨毛上皮にあるTight junction(TJ)の電子顕微鏡観察の染色剤としてランタンは一般的に使用され,TJから透過することが<I>in vitro</I>の実験で認められている.さらに炭酸Laの動物実験でも腸管への蓄積が認められ,薬剤の臨床使用の有害事象に好酸球増多があるなどの知見も炭酸Laによる好酸球性腸炎の発症の可能性を示唆している.自験例も,薬剤の中止で軽快した臨床経過から炭酸Laによる好酸球性腸炎と考えられた.炭酸Laによる蛋白漏出性腸症を伴った好酸球性腸炎の報告はまだないが,使用にあたって念頭におく必要があると考え報告した.