著者
石 瑾
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

既存研究が示唆したように、小売の国際化プロセスにおいては、進出先が市場環境の類似性が高い市場である場合、集権-標準型ビジネスシステムをもつ企業が短期的志向になり、分権-適応型ビジネスシステムをもつ企業が長期的志向になる。しかし、進出先を類似性の高い市場から異質性の高い新興市場に切り替えられるとき、既存研究の想定したビジネスシステムと成果スパンの対応関係が依然として成立するのか、それとも反転するのか、本研究はそれを問題意識とする。そこで、本研究は、まず小売の国際展開に関する先行研究のレビューを行った。そして、新興市場の代表として中国を取り上げ、新興市場の異質性をまとめた。さらに、本研究の分析視点と分析枠組みを提示し、それに基づいて理論的な分析を行い、新興市場では、集権-標準型ビジネスシステムをもつ企業が長期的志向になり、分権-適応型ビジネスシステムを持つ企業が短期的志向になるという仮説を導き出している。続いて、仮説検証を行うために、カルフール中国とウォルマート中国の事例を取り上げた。本研究は膨大な二次データと12回にわたる現地でのインタビュー調査によって収集した一次資料を用いて詳細な分析を行い、これまでほとんどブラックボックスとされてきた中国市場における両者のビジネスシステムの内実を明らかにした。さらに、本研究は両事例の比較分析を行い、理論的なインプリケーションをしている。最後に、従来の研究で示されているビジネスシステムと経営成果スパンとの対応関係が、新興市場において反転する論理をまとめた。さらに、集権-標準型ビジネスシステムと分権-適応型ビジネスシステムの識別、新興市場における小売外資と現地市場のさまざまな主体との相互作用といった問題に関するインプリケーションも示している。本研究の詳細を、2005年1月19日に経営学研究科に提出した博士論文「新興市場における小売外資のビジネスシステム-カルフール中国とウォルマート中国の事例-」に参照されたい。