著者
石 錚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2010年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.68, 2010 (Released:2010-06-10)

I_.研究目的 本稿では在日の外資系企業における立地実態を把握し、日本に進出している外資系企業による立地選択の要因を取り上げて分析を行う。「ダイヤモンド・モデル」理論をベースとした各競争の要素をそれぞれに計量化をして、階層クラスター分析した結果から、日本における外資系企業の集積地の形成と各要素の因果関係及び立地選択の鍵を考察していきたい。統計分析では、立地に関するハードの条件(インフラ整備)のほか、ソフト(生活・ビジネスネットワークやリンケージの構築)の条件に着目し、地域ネットワークの構造的特徴による集積地の形成及び外資系企業の立地要因の関係を検証し、投資者の立地選択に対する意思決定の主なポイントを探ってみる。すなわち、産業立地に関する要因の分析を従来的な貿易・経済的立地論から、グローバルな競争戦略や人的ネットワーク・リンケージ構築による新たな経営の側面から考察する。そして、集積地の特性をさらに明確にするため、著者はレーダー・チャ-トを用いて、同じ集積地のなかに存在している各都道府県に対してもそれぞれの立地傾向を比較し、明らかにする。 II. 仮 説 筆者は、外資系企業について、以下の3つの仮説を立てる。 1)日本における外資系企業は、3つ以上の集積地を形成する。 2)一極集中となった東京はもちろん、ほかの地域でも、地方の中心都市を巡って、集積地は形成し始める。 3)外資系企業は立地選択をする時、ハードインフラの整備だけではなく、ソフトインフラ(ネットワーク、リンケージなど)も整備されていることを重視する。 III. 研究手法 これらの仮設を調べていくために、M.ポーターのクラスター概念(ダイヤモンド・モデル)を導入した。ダイヤモンド・モデルでは、分析項目を企業リンケージ・ネットワークの視点から、在日の外資系企業の立地の競争優位を 1)立地の要素条件 2)需要条件 3)関連・支援産業の分布 4)企業間の競争環境という4つの要因に分ける。また、著者は外国人の生活面の充実も1つの要因として考えているため、さらに 5)生活条件という要素も加えて分析する。統計ソフトSPSS(version11.5J)を用い、各要因を階層クラスター分析分類したほか、エクセルのレーダー・チャートグラフも使い、集積地を構成した各都市の立地要素に対する比較も行った。 *主なデータソース: (1)東洋経済新報社編の『外資系企業総覧』2004、2007年 (2)日本貿易振興機構(ジェトロ) (3)総務省統計局 (4)法務省入国管理局 (5)経済産業省 『外資系企業動向調査』2006年 (6)外務省駐日外国公館 (7)株式会社ウェバーズ *分析対象としたのは全て11変量で、各要素における変数の選択は以下のように行った。 1)要素条件として、大学及び大学院生の数を考慮に入れた。(2変数) 2)需要条件は、地域の対外貿易度(港の輸入出額)、日系企業(会社)の数、及び日系企業に勤める従業員の数を参考にした。(3変数) 3)支援関連産業は、ジェトロオフィス(IBSC)、各都道府県の地域支援センター、及び外国公館の立地場所を参考にした。(3変数) 4)競争要素についてのデータは、日系企業と外資系企業の数両方を使用した。(2変数) 日本とアメリカのマーケット環境が異なるため、日米間の競争環境の相違も考慮した。 5)生活条件で参考にしたデータは、外国人の人数と外国語に対応できる医療機関の数である。(2変数) IV. 結 論 階層クラスター分析により、以下の結果が得られた。 1)ダイヤモンド・モデルの各要素を分析条件にして、(1)首都圏集積地(2)関東集積地(3)関西集積地(4)九州集積地 という4つの集積地が現れた。 2)第二集積地を構成する神奈川、愛知、大阪は、それぞれ関東、中部、関西の中心都市となる。第三集積地に含まれている都市は、これらの中心都市の周りに、第三集積地を形成し始めることが分かった。 3)生活条件やソフトインフラの重要性についても検証できた。たとえば、埼玉県は、第一から第三集積地の中、唯一の海岸線を持っていない県で、いわゆるハードインフラの優位性は弱いが、第三集積地に入っている原因は、グローバルシティとなる東京と隣接しているため、既に東京に進出している企業とのリンケージの構築が立地選択には有利となっていることが推定できる。