著者
山田 真伸 長谷川 睦 石井 ゆりこ
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3038, 2009

【目的】<BR>アレクサンダー・テクニーク(以下、AT)は、19世紀のオーストラリア人、F.M.アレクサンダーがはじめたものである.ATとは、抑制のプロセスを適用し、頭部と脊椎の関係に着目し四肢を解放することにより、頭頚部の動きが身体全体をリードするようになり、人間本来の身体機能に近づくことを追求したものである.頭部と脊椎、特に頭頚部は姿勢制御において重要な役割を果たし、理学療法でも治療対象部位となる.そこで今回、AT概念を取り入れた手技(以下、手技)をAT生徒であり理学療法士(以下、PT)の筆者が行い、その前後での姿勢制御機能の変化を重心動揺計にて検討した.<BR>【方法】<BR>対象は、研究趣旨を説明し同意を得た健常者11名(男性5名、女性6名、平均年齢29.8±6.4歳、平均身長167.1±7.1cm)とした.方法は、重心動揺計(Active Balancer EAB-100、酒井医療)を用い、手技(背臥位、座位)前後での静止立位時の重心動揺測定を行った.測定は、日本平衡神経学会の基準に従い、開眼閉脚60秒間とした(サンプリング周波数20Hz).測定項目は総軌跡長、外周面積、実効値面積、単位面積軌跡長とした.統計処理には、t検定を用い、各測定項目を手技前後で比較した.<BR>【結果】<BR>総軌跡長は、手技前937.0±84.1mmから手技後909.8±98.9mmと有意差は認められなかった.外周面積は、266.7±150.2mm<SUP>2</SUP>から213.3±111.8mm<SUP>2</SUP>と有意に減少した(p<0.05).実効値面積は、186.8±151.8 mm<SUP>2</SUP>から118.7±78.4 mm<SUP>2</SUP>と有意に減少した(p<0.05).単位面積軌跡長は、4.3±1.8mmから5.2±2.1mmと有意に増加した(p<0.05).<BR>【考察】<BR>結果より、手技後に重心動揺の大きさを示すパラメーターの外周面積、実効値面積は有意に減少し静止立位の安定化を示唆した.さらに重心動揺の性質を示すパラメーターの単位面積軌跡長が有意に増加した.単位面積軌跡長は、重心動揺における姿勢制御の微細さを示すパラメーターとされ、この微細な制御は固有受容器姿勢制御機能によるもので、増加を示すことは姿勢制御機能が向上したと考察できる.これは手技後に、ATで重要視される頭頚部の位置関係が適切となり、固有受容器の筋紡錘が高密度に含まれる頚部深層筋が賦活されたことが考えられる.それに伴い身体重心線が理想的配列に近づき、骨構造を通しての体重支持が可能となり、各関節内にも多く含まれる固有受容器が賦活されたことも姿勢制御機能向上の一因と考えられる.<BR>【まとめ】<BR>健常者に対して手技を行うことにより、静止立位時の重心動揺における姿勢制御機能への効果が示された.しかし、本来ATは認定教師が行い最も効果が期待できるものであり、単純に姿勢制御のみへの効果を示すものではない.筆者はあくまでも約3年間AT教師からレッスンを受けたAT生徒という立場のPTである.今後もATで得た知識をPTとして臨床展開していきたい.